バイクの英語

第48回
「A pain in the neck
(ア ペイン イン ザ ネック)」

 先日、20代の女の子に「燃費が良くなる走りってどんなのですか?」と聞かれました。筆者が乗り物に詳しいと思っての質問でしょうけれど、彼女は最近のとっても燃費の良い軽自動車に乗っていて、今でもリッター19.6キロは走っているそう。でもカタログ上は26キロ走るはずだから、なんとしてでも20は超えたいらしく相談してきたわけです。
 車について何にも知らない人に燃費走行を説明するのは難しいなぁと思いながら出した答えは、「ブレーキを踏まない」でした。
 もちろん、必要な時は踏んでいいんだし、最終的に停車するにはどうしてもブレーキが必要だけれど、世の中にはとにかく意味もなくブレーキを踏みまくる人がたくさんいると思いません? これはオートマ車が一般的になって「進む」「止まる」と2つのペダルしかなくなった弊害にも思うけれどどうでしょう。筆者はミッション車に乗っているため、ギアチェンジやアクセルコントロールを駆使することでブレーキを使うことは本当に少ない。でもオートマだとエンジンの回転数など意識しないから、アクセルはあくまで「進む」ものであって、アクセルから足を離せばブレーキを踏まなくたって自然に減速していくってことに思い至らないんでしょうね。
 その子には「あくまでブレーキを使うなってことではなくて、なるべくブレーキを使わなくて済むような運転を心がけると、自然と視線は遠くを見るようになるし、あらゆる可能性を予測する『かもしれない運転』になるため安全性も燃費も向上するよ」といった説明をしました。燃費向上のため、ということをきっかけに、本当の意味でより安全でスムーズな運転になれば良いな、と思う次第です。
 先日、高速道路を走行中に、追い越し車線を走っていたら別の車に追いつきました。その車は筆者に追いつかれても決して左に寄って譲ろうとはしません。そういうドライバーも多いですので別に驚きませんし、業を煮やしたら最終的には左に出て、追い抜き、しばらく走ってからまた右車線に入るという対処をします。筆者の中ではこれは「左側追い越し」ではなく「左側追い抜き」であるため違反ではないと思っています。読者の中に詳しい人がいたら教えてほしいですが、いかがでしょう。これがOKじゃなかったら、初心者がまかり間違って追い越し車線を延々65km/hで走り続けちゃったら高速道路が機能しなくなってしいます。さらにそういったドライバーを左車線に移るように促す処置を高速道路の管理側はしていないわけで、交通の流れを乱すドライバーが多数いるなかでテンポよく、効率的に走りたい筆者のようなドライバーはグレーっぽい交通法規をうまいこと操っている(と思っている)わけです。
 さて、この追い越し車線を延々走ってどかなかったドライバーは、さらに意味もなくブレーキを踏みまくる人だったのです。ホントに、高速道路を一定速で巡航しているのに何故かブレーキをポンポン踏む。減速するわけではなく、ただクセなんでしょうね。なんとなくアクセルを離して、なんとなくブレーキペダルにちょっと触って、またアクセルを踏むんでしょう。……何故だぁ!! 後ろを走っているこちらとしては非常に面倒。定期的にブレーキランプを目の前で照らされるのが腹立たしいのはもちろんのこと、そのランプが点くたびに「ん? 何かあったかな?」とこちらもアクセルを緩めてしまう。淡々と走り続けたいのに意味もなく緊張を強いられるこういったクセのあるドライバー、ホントに「Pain in the neck」なんですよ!

 やっと出てきました、今回の英語「Pain in the neck」。直訳すれば、「首に痛み」ですね。
 首の痛み、ライダーならば誰でも経験したことがあることでしょう。防風効果の高くないバイクで高速道路を走り続けた場合や、ただ単純に一日の走行距離がとても長くなった場合、もしくは今の季節のように寒さから体がこわばっている場合、首にピリピリとした痛みが走ることがありますよね。肩コリから首にきたりすると、頭痛にもつながったりしてなかなかやっかいな痛みです。小休憩を取って肩をよくストレッチしても、一度なってしまうとなかなかなくなってくれないし、気になり始めるとライディングに集中できない。さらにTシャツのタグが肩の所に擦れたりして、それがまた気になって余計に首や肩のあたりに違和感が出てきてしまって、「ああもうだめだ! 今日はやめる!」となることもあるでしょう。
 どうにも良い対処法がなく、継続的にストレスをかけてくるそんな首の痛み、追い越し車線に居座る無駄にブレーキをかけるアノ車と同様にまさに「Pain in the neck」なのです。
 いつもでしたら有力な語源を記すのですが、この言い回しはかなり古いものではっきりしたことは言えません。
 しかし一説では林業従事者の間で使われていたとされています。斜面で伐採をしている際、足場の不安定な中、大きなのこぎりを二人で引っ張りあいながら常に木を見上げて倒す方向を伺っていたことから、不自然な体勢で重労働をしていたために首に痛みを抱えている人が多かったと言われています。同時に高山病にも悩まされ、頭痛とも戦っていたという説も。こういった痛みは常にケアしなければならないもので労働者としては煩わしいものだったことでしょう。また大きな木を、今のような機械がない当時、人里まで運び出すことも大変に骨の折れる作業だったことは想像に難しくありません。急斜面からの搬出など対応が難しい場面において、首の痛みと関連付けて、思うようにいかない作業や難しい局面を「Pain in the neck」と呼ぶようになったのかもしれません。
 しかし一方で、同義語で「Pain in the ass」というのもあるのです。assとは尻のことですね。全く同じ意味で使われるのですが、首の痛みと同じように尻に対応が難しい鈍痛が走る場面といえば、どうしてもバイクが頭に浮かびます。オフロード車で長距離ツーリングなどすると、本当に耐えがたい尻の痛みに襲われたりしますよね。最初は少し左右にずらしたりしますが、しばらくすると対応が不可能なほどの嫌な痛みに発展します。
 この二つの言い回しを合わせて考えると、やはりいずれもバイクから生まれたもののような気がしてきます。バイクの歴史なんてたかだか百数十年と考えると、そんなに若い言い回しなのか、などとも考えてしまいますが、戦後の日本がそうであったようにバイクは車の前の大切な移動手段。ヨーロッパでは大きなサイドカーに家族全員を乗せて遠出していた時代もあったのです。そう考えると一人雨風に当たりながら運転を担当していたお父さんは、重いサイドカーに引っ張られながら一生懸命バイクをコントロールしていたわけで、Pain in the neckにもPain in the assにも悩まされていたことでしょう。

 この言い回し、先述の追い越し車線居座りブレーキ野郎のような、一個人を指して「He’s a pain in the neck」(奴は面倒な野郎だ!)と使う場合もありますし、状況に対して「Changing tube tires are a pain in the neck」(チューブタイヤの交換は面倒だ)などと使うこともあります。総じて対応が難しく、ストレスをかけられている面倒な場面で使う言い回しということですね。
 特に運転中はナビやスマホに夢中にならず、かつ余裕を持って運転できる程度の技量はしっかりと備え、周りの状況を把握してスムーズな交通社会の実現に寄与していただきたく、周りのドライバー/ライダーにとって「Pain in the neck」にならないようお互い気を付けたいものですね。


筆者 
ミルキー・クエル

公道レースで数々の栄光を勝ち取りながら、大クラッシュを機にタクシー運転手に転職。燃費のためにもスムーズな運転をしたいだけに、そこかしこにいる「Pain in the neck」ドライバーに日常的に腹を立てている。「ちゃんと運転というものに集中しろよな!」が口癖。ミルクティーとクリームたっぷりのスコーンをこよなく愛する。


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