MBHCC E-1
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西村 章

スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した最新著『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

月31日〜2月2日セパン合同テスト レギュレーションが大きく変わった2012年本格起動

 1月31日から2月2日までの三日間、マレーシア・セパンサーキットで今年最初のプレシーズン合同テストが実施された。レギュレーションが大幅に変更される節目の年で、ホンダ、ヤマハ、ドゥカティのワークスマシンが勢揃いし、しかも今年から導入されるCRT(Claiming Rule Teams:量産車改造エンジンを独自フレームに搭載したマシン)勢も参加するとあって、見どころ満載のテストだった。

 今年から1000cc化されるプロトタイプ勢の全体的な印象としては、ヤマハYZR-M1の順調な仕上がりに対して、ホンダRC213Vとチャンピオン、ケーシー・ストーナーの組み合わせはあまりにバカっ速く、今年もおそらくシャレにならないほどの強さを発揮するのだろうなと予感させるに充分な走りを披露した。一方のドゥカティはというと、昨秋以降急ピッチで仕上げてきたデスモセディチGP12はHY両陣営と比較して急拵えの感は否めなかったものの、それでも昨年の迷走からは明らかに立ち直って新たな方向性を見いだしつつあるようだ。バレンティーノ・ロッシの言葉の端々からも手応えを掴んだ様子は窺えたし、なにより、ドゥカティ・コルセ・ゼネラルマネージャー、フィリポ・プレツィオージが現地入りしているところに彼らの本気というか必死さというか不惜身命ぶりが垣間見えた。

まったくかわいげがない速さは今年も健在。チャンピオン最右翼?
まったくかわいげがない速さは今年も健在。チャンピオン最右翼?
「昨年抱えていた問題の50%は解決できた」とか。残りの50%は?
「昨年抱えていた問題の50%は解決できた」とか。残りの50%は?

一方、量産車改造エンジンを独自フレームに搭載したCRT勢はというと、今回のセパンテストに参加したのは2チーム3台のみ。NGMモバイル・フォワードレーシング(BMW/Suter)のコーリン・エドワーズと、アヴィンティア・レーシング(Kawasaki/FTR:チーム母体はBQR)からの2台。諸事情からセパンへ来ることの叶わなかったCRTのうち、2チーム3台(いずれもアプリリア)は1月30・31日の両日にスペイン・バレンシアサーキットでテストを実施している。1月中旬に発表された暫定エントリーリストによると、CRT勢はこれら以外にも3チーム計3台が参戦することになっているのだが、この今回未走行組+バレンシア組の計6台は次回2月下旬のセパンテスト2回目にも参加せず、スペインのヘレスやアラゴンでプライベートテストを行い、3月下旬に行われる最終ヘレステストでようやくプロトタイプマシン勢と一緒に走行する予定だという。

このような現状を鑑みれば、いまだ姿を見せていないCRT勢のマシン設計開発がどれほどの進捗を見せているのかは「???」、というのが正直なところだ。

[テスト1日目]

プロト最上位:J・ロレンソ(2’01.657)

プロト最後尾:K・アブラハム(2’03.831)

CRT最上位:C・エドワーズ(2’08.240)

CRT最後尾:I・シルヴァ(2’11.267)

[テスト最終日]

プロト最上位:C・ストーナー(1’59.607)

プロト最後尾:K・アブラハム(2’02.218)

CRT最上位:C・エドワーズ(2’04.722)

CRT最後尾:J・トレス(2’10.184)

この人にしてこのタイム。CRTはいまだ「日暮れて道通し」状態?
この人にしてこのタイム。CRTはいまだ「日暮れて道通し」状態?
ロス・インディオス&……(※?の貴方は、下のエントリーリストを参照)
ロス・インディオス&……(※?の貴方は、下のエントリーリストを参照)

 テスト最終日のタイムでも、CRT最上位(エドワーズ)とプロト最上位とのタイム差はまだかなり大きいが、プロト最後尾にはかなり接近していることが見て取れる。とはいっても、一周あたり2秒5の差がある以上、経験豊富なエドワーズといえども、プロト最後尾を勝負できる射程圏内に収めるのは現状ではまだかなり難しそうだ。三日間の推移でも、CRTのタイムの詰め幅はプロト勢のタイム上昇よりも大きいとはいえ、このタイム上昇は初日の出足が低かったことによるものだろうから、ここから先さらにタイムを上げてプロト最後尾にどれだけ肉迫できるかということに関しても、未知数、といわざるをえない。さらに、彼らのテスト内容を見ていると、電気系のトラブルでなかなかピットアウトできなかったり、あるいはフルードの漏れが発生してその解決に時間を費やしたり、といった具合で、メカニカルな面での課題もまだまだ多そうだ。ちなみに、プロト勢最上位のタイムとCRT最後尾のタイム差(約10秒)は、セパンサーキットでいえばちょうどレース中盤の12周目あたりに周回遅れが発生する計算になる。いってみれば、鈴鹿8耐のレース開始後30分あたりの状況、といえばおおよその察しがつくだろうか。

 ……とまあそういうような具合で、CRT勢のパフォーマンスは現状ではまだ多くの課題が山積していることが明らかになったセパンテストではあった。ただ、CRTというコンセプトが誕生したときから、この程度の差が生じるのはおそらく織り込み済みだろう。その差を埋めるために、つまり、CRT勢のパフォーマンスを向上させつつプロト勢との差を詰めてゆくために、様々な案の提出や協議がDORNAとMSMA(スポーツモーターサイクル製造会社協会)の間で行われており、今回のセパンテストでもミーティングが行われた。来年のレギュレーション成立に向けて両者間で様々な交渉や譲歩、駆け引きなどが行われているであろうまさにその渦中の現在、いくつかのたたき台のような案もちらほらと漏れ聞こえてはくるが、これらに関しては機会があれば改めて稿を起こすことにしたい。

 いずれにせよ、CRTが本格的に動き出した以上、その規格が存在意義のあるものになり、MotoGPの世界最高峰としての権威と品格を損ねることなく、レースの興趣をさらに高める形で定着をしてほしいと思う。

 ふむ。なんだか今回は妙に生硬な文章になってしまってすいません。2月末のセパンテストはもうちょっと力を抜いたレポートにしたいと思います。というわけで、ではまた次回。

次回のテストは2月28日から3日間。
次回のテストは2月28日から3日間。

2012年MotoGPエントリーリスト
No. ライダー チーム名 車両
1 ケーシー・ストーナー レプソル・ホンダ・チーム HONDA
4 アンドレア・ドヴィツィオーゾ ヤマハ・テック3 YAMAHA
5 コーリン・エドワーズ フォワードレーシング シューター(CRT)
6 ステファン・ブラドル LCRホンダ HONDA
8 エクトル・バルベラ プラマック・レーシングチーム DUCATI
9 ダニロ・ペトルッチ イオダ・レーシングプロジェクト イオダ(CRT)
11 ベン・スピース ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
14 ランディ・デ・ピュニエ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
17 カレル・アブラハム カルディオンABモトレーシング DUCATI
19 アルバロ・バウティスタ ホンダ・グレッシーニ HONDA
20 アレックス・エスパロガロ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
22 イバン・シルバ BQR BQR-FTR(CRT)
26 ダニ・ペドロサ レプソル・ホンダ・チーム HONDA
35 カル・クラッチロー ヤマハ・テック3 YAMAHA
46 バレンティーノ・ロッシ ドゥカティ・チーム DUCATI
51 ミケーレ・ピロ ホンダ・グレッシーニ FTR(CRT)
68 ヨニー・エルナンデス BQR BQR-FTR(CRT)
69 ニッキー・ヘイデン ドゥカティ・チーム DUCATI
75 マティア・パシーニ スピード・マスター ART(CRT)
77 ジェームス・エリソン ポール・バード・レーシング ART(CRT)
99 ホルヘ・ロレンソ ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA

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