第24湯 山形北部湯巡りツーリング(1日目)
毎年8月下旬は別冊の編集やイベント、取材などでバタバタしているのだが、今年は別冊やイベントもなく、珍しく夏休みが取れそうな雰囲気だった。とはいっても、ドカンと長い休みが取れるわけではないので、日曜日を挟んだ2日間夏休みを取ってロングツーリングに出かけることにした。本当は思い切って本州を離れて遠くに行きたかったが、日程が短いので、まだ入湯していない山形県の名湯・銀山温泉と肘折(ひじおり)温泉を制覇すべく、山形北部方面に出撃することにした。
お盆休みが一段落した8月19日の午前5時00分に自宅を出発。夜明けの首都高を通過し、東北自動車道を通って昨年の秋以来となる東北地方へ向けて進む。午前10時00分、ほぼ予定どおり出発地点となる古川インターに到着。ここから、まずは国道47号線を通って山形県の赤倉温泉を目指した。
国道47号線沿いには、日本屈指の温泉地である鳴子温泉郷や中山平温泉、鬼首(おにこうべ)温泉がある。これらの温泉は5年前に入ったので、今回はパス。夏の日差しを思いっきり受けながら1時間20分ほど走り、県道28号線に入って間もないところに赤倉温泉があった。
静かな温泉街の奥のほうで共同浴場らしいものを発見するが、住民以外は入湯不可能とのこと。温泉街の入口にあった看板で調べるが、共同浴場らしいものは見当たらない。どこかホテルか旅館で日帰り入浴しようと思っていたところ、看板に書かれた不思議な表示が目に入ってきた。「特設野天風呂 天空の湯」。指し示されているところはスキー場だった。ものは試しと、とりあえず行ってみることにした。
温泉街から5分ほど走ったところに赤倉温泉スキー場があった。あたりは夏のスキー場らしく人影はなくガランとしており、温泉らしいものはどこにもない。小さな建て看板に従ってドンドン奥に進んでいくと未舗装の林道になり、もはや4WDやオフ車じゃないと行けない道になっていた。そして目の前にはゲレンデが広がり、ゲレンデの中腹にあるリフトの中継所あたりに旗が立っていた。
「もしかして、温泉って、あそこか…」リフトの中継所へ行くには轍が1本しかない。ここまで来たら引き返すわけにはいかない。意を決して登ることにした。轍を進むにつれて斜面は急になり、石がゴロゴロし、歩いて登るのもツライ状況になってきた。ラフロードに慣れない私は途中スタックしてしまって登れなくなり、ニッチもサッチもいかなくなって温泉を管理しているスタッフの方にヘルプしてもらった。何とか方向転換して、いったん下まで降りて再度アタックすることにした。
オフロードコースを走ったことのある方なら、こんなラフロードは楽勝だろうが、オフ車乗りながらオフを走ったことのない私には、高いハードルだった。おまけにキャンプ用品を積み、1ヶ月前にオンロード系のタイヤに交換してしまっていた。とにかく自分を信じてスロットルを緩めずに一気にアタック。途中危ない瞬間があったが、何とか登りきった。スタッフの方にお礼を言って(本当にありがとうございました!)、入湯料200円を払って早速温泉に入ることにした。
赤倉温泉「特設野天風呂 天空の湯」は宮城県に近い山形県最上郡最上町の赤倉温泉スキー第1リフト中継所に設置された混浴露天風呂だ。今年で9回目を迎える8月のお盆までの土日にだけ設置される温泉で、開場は10時から15時、雨天は休場。お湯は温泉街から四駆のトラックで運ばれてくる。訪れた日は今年最後の日とのことで超ラッキーだった。
湯船はリフト中継所のデッキ部分に設置されており、視界を遮るものは何もない。まさに絶景。ここに来るまでの苦労がすべて報われた。ここまでトラックで運ばれているとはいえ、無色透明のお湯は適温で、つい長湯しそうになる。風呂から上がり、汗が引くまでスタッフの方としばし談笑。第1湯目から見事なハプニングだったが、第2湯目はスタッフの方のアドバイスに従って銀山温泉に向かうことにした。
県道28号線を尾花沢市方面に進み、国道347号線、県道29号線、県道188号線を通って20分ほどで銀山温泉に到着。温泉街に駐車場はないので、近くの駐車場に止めて徒歩で温泉街に向かう。到着すると観光客が大勢訪れており、写真で見たことのある温泉街が佇んでいた。
銀山温泉は山形県尾花沢市にある東北有数の温泉だ。温泉街の奥にはかつては銀鉱山(延沢銀山)があり、そこから流れる銀山川を挟むように峡谷に沿って昔ながらの風情を残す旅館が立ち並んでいる。銀山温泉には共同浴場が数箇所あり、今回は温泉街の真ん中ぐらいにある「大湯(かじか湯)」に入ることにした。
入口にある木賃箱に入湯料300円を入れる(宿泊者は無料)。共同浴場らしいこじんまりとした湯船には、かすかに白濁した源泉がたっぷり注がれている。源泉は約64℃と高温だが、湯船内のお湯は適温だった。薄日を浴びながらしばし入浴。外は観光客がたくさん歩いているのに、ここだけ静かだ。私が入浴している間は誰も入ってこなかった。
浴場から出ると汗が吹き出てきた。さすが山形県の夏は暑い。銀山川にかかる橋の上で揚まんじゅうを食べながら休憩。第3湯目をどこにするか迷ったが、尾花沢市内まで行って遅めの昼飯を食べて、そこから最上方面まで戻って瀬見温泉に入ることにした。
国道347号線を通って尾花沢市内に入り、適当に選んだ焼肉屋で肉うどんを食す。そして国道13号線を新庄市方面に北上し、国道47号線に入って赤倉温泉方面に進み、約1時間かけて瀬見温泉に到着した。
瀬見温泉は山形県最上郡最上町の小国川沿いにある開湯800年という由緒ある温泉だ。瀬見温泉はサウナのようなふかし湯があることで有名だが、今回はふかし湯の隣にある共同浴場に入った。入湯料は200円。お金を入れると自動ドアが開くというセキュリティー万全の浴場だ。自動ドアにびっくりしたが、湯船は共同浴場的なコンパクトな作り。お湯は無色透明で、高い源泉温度ながら適温に保たれている。
お湯から上がって涼んでも汗が全然引かない。真夏に湯巡りするのは久しぶりなので、感覚が鈍ってしまったようだ。メッシュジャケットを持ってこなかったのを後悔した。今夜のキャンプ地を考えながら、瀬見温泉から近い大堀温泉を第4湯目に選んだ。
国道47号線を赤倉温泉方面に進み、県道316号線に入ってほどなくして目的地である大堀温泉「健康福祉プラザ保養センターもがみ」があった。「健康福祉プラザ保養センターもがみ」は山形県最上郡最上町にある日帰り入浴施設だ。入湯料は350円。内湯、露天風呂ともに広々としており、露天風呂からは周りの山々が見渡せて開放感がある。お湯は無色透明だが、やや熱めだった。第4湯目にして施設が整った温泉に入った。
大堀温泉を出ると時間は16時30分を過ぎていた。周辺にキャンプ場が少ないので選択肢が限られており、大堀温泉から30分ほどのところにある前森高原オートキャンプ場を選んだ。国道47号線から前森高原に向かう1本道に入る。町から離れると、周囲には高原らしく牧草地が広がって牛が草を食んでおり、のどかな雰囲気だ。
1本道の終点付近に管理棟があり、料金は思いのほか高く2700円。夏休みのせいか先客が何組かおり、子供たちが場内で遊んでいる。テントを張り、スタッフの方のアドバイスに従い、キャンプ場手前にある前森温泉に行ってみることにした。キャンプ場に来るまで温泉らしい建物が見当たらなかったので不思議に思っていたが、キャンプ場から国道47号線方面に5分ほど戻ったところにある、一見すると民家のような建物がそれだった。
前森温泉「清流」は近くの畜産会社の敷地内にある温泉施設だ。この畜産会社の保養施設のようだが、一般にも開放されている。営業時間は13時から21時となっている。入湯料は300円。受付らしきところには誰もいなかったので、案内に従って入浴後に支払うことに。湯船は内湯がひとつしかないが、無色透明の掛け流しのお湯がたっぷり注がれており、適温のキリッとサッパリとした肌触りだった。
入浴後、受付にいくとスタッフの方がいたので入湯料300円を払って前森温泉をあとにした。キャンプ場に戻ると日は落ちて気温も下がってきた。夕食を摂り、まったりしていると眠くなってきた。朝が早かったのでいつものように早々に寝入ってしまった。
翌朝、少し早めに起きて、午前7時15分にはキャンプ場を出発した。天気は晴れ。高原らしい清々しい空気を吸いながら、朝風呂代わりの第1湯目「舟形若あゆ温泉」を目指した。夜には東京に戻るスケジュールだが、果たしてどうなることやら。
●赤倉温泉「特設野天風呂 天空の湯」 | ★★★★★ | |
期間限定の勇者のみが入れる温泉。 | ||
●銀山温泉「大湯」 | ★★★★★ | |
風情ある町並みと名湯がベストマッチング。 | ||
●瀬見温泉共同浴場 | ★★★★★ | |
歴史ある温泉街の日常が感じ取れる共同浴場。 | ||
●大堀温泉「保養センターもがみ」 | ★★★★★ | |
森深い山形の山々が一望できる露天風呂。 | ||
●前森温泉「清流」 | ★★★★★ | |
つい見逃してしまいそうな作りの建物だがお湯は良質。 | ||
●竜島温泉「せせらぎの湯」 | ★★★★★ | |
松本市からほど近い癒し系の日帰り温泉。 | ||
[第23回へ][第24回][第25回へ][バックナンバー目次へ]