おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第33回
蔵王エコーライン


東北地方の名の知れた道のひとつである蔵王エコーラインは、宮城・山形県道12号線約65kmのうちの、蔵王連峰を東西に横断する約26kmの区間の道のことで、1962年秋に開通し、1985年に無料開放された。山岳観光道路で九十九折が続くので走って面白く、景色もいい。11月初旬から4月下旬までの冬季は閉鎖されるが、4月下旬の開通から5月半ばころまでは雪の壁が楽しめて(バイクでは寒いけど)、初夏は新緑が美しく、秋は紅葉を堪能できる。



MAP

 蔵王エコーラインを初めて走ったのは36、37年前の夏で、俺が20歳前後の時だったと思う。定時制高校の時の友達が茨城の高萩や福島のいわき、山形の白鷹町出身で、卒業後もバイクを通して付き合いがあり、お盆休みを利用して彼らが帰省し、それに一緒に付いて行ったときだった。まず茨城の友の家に世話になった。庭先で彼の家族と俺を含めた同級生数人でバーベキューを楽しんだのを覚えている。随分昔のことで、彼のご両親も健在だった。

 翌日、俺は山形の友の家に彼と一緒に向かった。そのとき、袋田の滝あたりまで茨城といわきの友人も一緒に走り、その後分かれて俺たち二人で…いやもう一人くらい同行したかも…。その際、国道4号線をしばらく北上し、宮城県に入って白石から3桁国道を左に進み、その後蔵王エコーラインを利用して山形県に入った。当時、峠道や山岳ワインディングは結構走っていたが、彼の道の景観のよさには感じ入ったものだ。もちろん、若かったのでそれなりのペースでコーナリングも楽しんだ。俺はその頃、TX500に乗っていた。

 20代半ばで二輪雑誌の仕事をするようになってからは、仕事で蔵王周辺を何度か訪れ、エコーラインを走っている。ただ、個人的なツーリングではそれ以降、通っていなかったと思う。久しぶりにエコーラインを走ったのは3年前の夏に息子と東北ツーリングしたときだ。山形の友とは長く付き合いが続いていて、彼が東京マラソンに参加するとき家族と一緒に俺のところに泊まったりする。ホテルでは味気ないし、我が家は狭いがのんびりできるからだろう。

 俺もこのところ毎年のように、夏か春、山形へ行き、彼の家で世話になっている。春の場合、GW時にあるバイク仲間の集まりが北関東であり、それに参加して1泊し、翌日、山形に足を向けることが多い。息子と一緒に東北へツーリングに行く場合もほとんど彼の家で一泊させてもらっている。3年前の夏も二人で泊めてもらった。その際、山形へのルートに蔵王エコーラインを利用した。それまで山形の彼の家に行く場合、日光~会津経由が多かったので、違うルートで行ってみようと思い、久しぶりにエコーラインを通ることにしたのだ。



3年前に息子と一緒にエコーラインを走った時、休憩したこまくさ平の不帰の滝展望台にて。芸のない素人写真でお恥ずかしい。息子よ、肝心の滝も写っていないって、どうなのよ? 後方左の山が苅田岳、だと思います。
3年前に息子と一緒にエコーラインを走った時、休憩したこまくさ平の不帰の滝展望台にて。芸のない素人写真でお恥ずかしい。息子よ、肝心の滝も写っていないって、どうなのよ? 後方左の山が苅田岳、だと思います。

 いつものように都心を抜けるまでは高速を利用し、茨城県南部からは空いていて路面状況もいい県道や3桁国道をつないで宮城県の白石まで。そこから国道457号線で遠刈田温泉まで行き、県道12号線~蔵王エコーラインに入った。標高が高いので夏でも涼しく、また平日だったので交通量少なく、気持ちよく走れた。しばらく上っていくと、こまくさ平の売店があり、駐車場にバイクを停めて一休み。すぐ近くに不帰の滝の展望台があったので、行ってみた。
 まずまず、といった景観だった。先に進み、苅田峠を境に山形県に入って針葉樹林の中、連続するコーナーを下ってゆく。山形側のほうが交通量はより少なく、景色も開けているところが多い。久々のエコーラインはいい道に違いなかったが、一部路面が荒れ気味になっていたりして、時の流れを感じた。時代の移り変わりとともに道の様子も変わることは少なくない。国道13号線にぶつかって上山市街から上山温泉に抜け、そこから少し迷いつつ細い山道を通ったりしながら小一時間走り、明るいうちに友人宅に到着した。

 昨年の夏、東北南部~信越を3泊4日でソロツーリングした時も、2日目にエコーラインを走った。初日は北茨城の港町の民宿に泊まり、翌日は原発事故で通れなかった国道6号線を迂回して避難区域の町村の状況を肌で感じながら伊達市まで。その後、県道と3桁国道を使って七ヶ宿湖からR457に入り、3年前の時と同じように遠刈田温泉から県道12号線~蔵王エコーラインに乗り入れた。このときも山形の友人宅に向かっていて、時間が押していて明るいうちに着きたかったので、途中で止まって休むことなく走り抜けた。

 エコーラインと呼ばれている約26km以外の県道12号線も気持ちよく走れる区間があって、総合的に走りやすい。また、去年初めて走った、七ヶ宿湖からR457までの県道51号線も、山麓のワインディングで交通量は少なく、路面状況がよくてコーナーも適当に現れる、気持ちよく走れる道だった。もう随分同じ経験をしているが、田舎の街と街をつなぐ県道にはグッドロードが多く、山間や田園地帯の風景を眺めながらいいペースで走れると得した気分になる。

 なお、蔵王エコーラインの最高地点、苅田峠から分岐して苅田岳、馬の背に至る有料の山岳道路=蔵王ハイラインを2.5kmほど上って行けば、美しい御釜を見ることができるようだ(頂上の駐車場から徒歩数分で)。これまではエコーラインを走り過ぎるだけで、ハイラインに踏み入ることはなかったが、二輪料金は往復で370円と手頃だし、今後エコーラインを走る際には、ハイラインも利用して、御釜を含めたきれいで雄大な景色を楽しんでみようと思う。



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不帰の滝(かえらずのたき)と御釜(おかま)は蔵王スカイラインの名所。不帰の滝は御釜からの水が97.5mから流れ落ちる滝。御釜は火口に水が溜まった火口湖で、水面は淡い緑色だが、季節によって色が変わって見えるため五色沼とも呼ばれている。●撮影-舟橋 朗


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、16年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万km。

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