オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

四国林道アタック!! シェルパの復活、そして・・・

 GWの後半、とりあえず復活したシェルパの調子をみるためオレは四国入りした。修理であれカスタムであれやり終えたあとにはひとまず走らせてみない事にはちゃんと仕上がっているかどうかは本当の意味では判別できない。シェルパのようにオフ寄りのマシンならその際、ダートを走らすのが一番だ。実際の所は家を出る時すでに若干のオイルの滲みが見て取れたのでその時点で完全な状態とは言えなかったのだが・・・。それでも2日3日でオイルが抜けきるはずもなくエンジンは元気に回るのでそのままオレはスタートをきった。四国の林道は距離の長いものから短いもの、フラットで難易度の低いものからそれこそ道とは呼べないようなガレ道で難易度の高いものまで多種多様だ。今回は復帰第一発目ということであまり無理はしないとオレは決めていた。フラットで走りやすいという点では全体の距離は長いが剣山のスーパー林道でもいいかなと思ったが普段の週末でも一般車両と出くわす事の多い剣山はこの天気の良い連休に気分よく走れるとは思えない。ひとまずオレはいくつかの林道にアプローチできる四国の中心辺りに位置する帰全山キャンプ場を目指した。丁度この日、帰全山キャンプ場では四国の仲間が何人か集まると言うのを聞きつけていたのでそれに合わせたというのも理由の一つだ。楽しい事は多い方がいい。
 瀬戸大橋を渡り、そのまま高速で大豊まで走る。途中、立川PAに立ち寄ると高知の海坊主氏が串焼きの売店で肉を焼いていた。彼がここで仕事をしているのは知っていたが立ち寄るのは初めてだ。失礼ながらあの強面でよく客商売が務まるものだと思っていたが見ているとなかなかどうして板についたものだ。まぁ実際、彼はその見た目とは裏腹にとても人間味のある温和な面も備えているので当然のことかもしれないが。仕事中という事もあってゆっくりとは話す事は出来なかったが多少の言葉を交わしPAをあとにした。


普段、仲間の仕事してる姿を見ることはなかなかない。向かって左で肉を焼いているのが高知の海坊主氏。皆それぞれ豊かな日常を得るため一生懸命働いている
普段、仲間の仕事してる姿を見ることはなかなかない。向かって左で肉を焼いているのが高知の海坊主氏。皆それぞれ豊かな日常を得るため一生懸命働いている。

 
 帰全山キャンプ場は大豊ICを降りてR439を西へ十数キロほど走ったところの川沿いにある。気兼ねなく思いっきり焚き火のできるお気に入りのキャンプ場だ。キャンプ場には数台のバイクが停まっておりいくつものテントが張られていた。GWだけあって一般の利用客も何組かいるようだがバイク乗りのそれは一見して区別がつく。どこかどうかと聞かれると説明は難しいのだが一言で言ってしまえば張られたテントから漂ってくる雰囲気だ。まぁ一番の理由は単にオレが見慣れてるテントとそうでないものの区別でしかないんだがね。案の定、見慣れたテントの周りには見知った顔が何人かいる。

 
 それにしてもなんだか久しぶりなキャンプな気がする。この前にテント、寝袋を積んで走ったのがこのコーナーでは書かなかったが3月の赤穂での牡蠣宴だった。あれから2ヶ月。普通の人ならば2ヶ月のスパンを久しぶりと言うのはどうかと思うかもしれないが多い時で年間60泊をテント泊まりしていたオレにとって2ヶ月ぶりというのはやはり久しぶりな感じなのだ。GWという事もあって遠方から来ている者もいる。この日も少しくらいは林道入りして走ろうかと思っていたのだが買出しを済ませ、テントの準備やらをしているうちにすっかりいつもの宴会ペースに飲み込まれ気がついた時にはまだ明るい時間にもかかわらずビールを片手にみんなと乾杯。まぁ、いいさ。まだ時間はたっぷりある。初日はこの空の下で久しぶりにみんなと語り明かそう。



お気に入りの場所にお気に入りの仲間達。バイクもキャンプスタイルもそれぞれが非常に個性的。そりゃ楽しいですよ


お気に入りの場所にお気に入りの仲間達。バイクもキャンプスタイルもそれぞれが非常に個性的。そりゃ楽しいですよ
お気に入りの場所にお気に入りの仲間達。バイクもキャンプスタイルもそれぞれが非常に個性的。そりゃ楽しいですよ。

寒かったのかって?いやいや、寒くなくてもキャンプに焚き火は欠かせないでしょ。暑くても煙たくても匂いがついても焚き火は最高です
寒かったのかって? いやいや、寒くなくてもキャンプに焚き火は欠かせないでしょ。暑くても煙たくても匂いがついても焚き火は最高です。

 翌朝、それぞれが次の目的地へ向けて身支度を始める。年間を通してそう何度もない長期休暇だけあって立てた予定はそれぞれ異なる。そしてその一つ一つに個性が見え隠れするのがバイク乗りの面白い所だ。オレはこの日、キャンプ場から山の方へ入ったところに入り口のある奥白髪林道を走る事にした。出発前にシェルパの状態をチェックしてみると心なしかオイルの滲みが酷くなっているような気がする。まぁエンジンが止まっている状態ではオイルが下側に堆積しているため滲む量が多く見えるのだろう。エンジンを回して走っているぶんには問題なかろう。


走りを考えたらない方がいいに決まってはいるがやはりオフ車には旅の荷物が似合いますな
走りを考えたらない方がいいに決まってはいるがやはりオフ車には旅の荷物が似合いますな。

 かの有名な早明浦ダムの近くを通る県道を山の方へ上がっていくと川沿いに奥白髪林道の入り口が見えてきた。アスファルトとダートが入れ替わり現れた後に完全なる林道が始まった。すかさずスタンディングのポジションをとる。さて、本当に久々のダートゆえにちゃんと乗り方を覚えてるだろうか。膝に爆弾を抱えているオレは長時間、スタンディングを維持できない。フラットなストレートではシートに腰を下ろすのだがそれでもデコボコした林道の細かな突き上げがあるため完全にシートに体重を預ける事はできず中腰な状態だ。ウッカリ腰を下ろしたままコーナーに入ったりするとちょっとしたギャップでコントロールを失ったりする。悪路におけるスタンディングの意味する所は己を膝を柔軟に使って自分の体の軸がブレないようにするのも理由の一つだが一番の理由は車体の重心を低い位置に保つ事にある。常に色んな方向に動きが変化するダートではコントロールしやすい状況を常に保つ事が重要だ。と、理屈は頭でわかっていても時折、膝が悲鳴を上げかけると腰を下ろしたままコーナーに飛び込んで何度かコケそうになった。それでも次第に身体は状況に慣れていき走る事に夢中になっていく。林道の頂上に辿り着きバイクを降りると膝ががくがくと笑い出した。それを見てついつい苦笑いが漏れる。こりゃ、オレ自身の肉体ももう少しメンテナンスが必要だな。


奥白髪林道の起点。起点というにはあまりにも道らしくないが普段走っている人のほとんどいない距離にして十数キロの穴場的なダート
奥白髪林道の起点。起点というにはあまりにも道らしくないが普段走っている人のほとんどいない距離にして十数キロの穴場的なダート。

頂上付近にてしばし休憩。たいした距離を走ったわけではないがやはりキツイです。本気でバイクを楽しもうと思ったら体力づくりも忘れちゃいけませんぞ
頂上付近にてしばし休憩。たいした距離を走ったわけではないがやはりキツイです。本気でバイクを楽しもうと思ったら体力づくりも忘れちゃいけませんぞ。

 雄大な四国の山の風景をバックにしばし休憩した後、オレは山を下った。時折、現れる急勾配に緊張が走る。ダートでは急な下りでのフロントブレーキは厳禁だ。リヤブレーキで速度を調整しながらコーナーではリヤタイヤをスライド気味に向きを変えていく。そんな中にあっては自分の膝の事などすっかり忘れてしまっている。山を降りきって緊張がとけた頃には痛みと疲労が一気に襲ってきた。路肩にバイクを停め、その脇にあぐらをかいてへたり込む。まったく、バイクを走らせるというのは結構、エネルギーを使うものだ。野球や、サッカーをして走り回るのと何ら変わりはない。まさしくスポーツといえる。そしてその共通する部分はやはり楽しいという事に尽きる。そして・・・腹が減る。オレは大豊IC近く32号沿いにあるひばり食堂で昼飯をとることにした。ひばり食堂は休日などツーリングライダーなども多く立ち寄る有名な店である。とにかく量が多い。この辺りを走り回っていてとにかく腹いっぱい食べたいと思うなら一度立ち寄ってみてはいかがかな。

 必要以上に腹を満たしたオレは5年前に事故で亡くなった仲間の墓参りをしてこの日のキャンプ地である紅葉温泉へと向かった。夕方前に紅葉温泉に着くとGWにもかかわらずキャンプスペースには誰もいなかった。この穴場的な感じが最高だ。本当に四国はキャンプして走ってに関してはとにかく不自由しない。テントを張り終えて一息ついててふと思った。以前、この紅葉温泉の向かいの山の道がどこかの林道とつながっているというのを聞いていた。前から気にはなっていたのだが今まで行ってみたことがない。ちょっくら行ってみるか。ガッツリ走りこむつもりはない。ちょっとした散歩がわりの散策だ。トコトコ走って山を登っていくと突然、とてつもない急勾配の上りにさしかかった。よせばいいものをオレはその坂を登っていった。勾配が落ち着くと道とは呼べないような道が林の中を通っている。そしてその先は結局、行き止まり。林の中にバイクを停めてしばし佇んでみる。時折、野生動物の鳴き声が聞こえてくる。オレのマシン以外は人間の文明らしきものが一切存在しない世界。これはこれでまた面白い。帰りの下りはメチャメチャ怖かったがね。


手を伸ばせばなんでもあるような世界から探しても何も出てこないような世界へトリップ。喧騒と静寂。本当に必要なのはどっちなんだろうか
手を伸ばせばなんでもあるような世界から探しても何も出てこないような世界へトリップ。喧騒と静寂。本当に必要なのはどっちなんだろうか。

 そのまま買出しに行き、キャンプ場に戻るとちょくちょくと昨日の面子が集まりだした。それぞれがお互いにどこへ行くここへ行くなどと話してバラバラに行動していたのだがやはりひとしきり走った後、行き着く場所は風呂があって仲間がいるという環境を選択しやすいものなのだろう。そしてこの日もバイク乗りならではのグダグダで話題の尽きぬじつに愉快な時間と共に一夜を過ごす事となった。

 翌朝、マシンをチェックするとオイルの滲みは滲みではなく漏れに変わっていた。ちょっと調子に乗りすぎたか!? もしかするとクラックが酷くなっている可能性もある。この日はこの紅葉温泉近くにあるかなりなガレ道であるマルキュー林道(オレが勝手にそう呼んでるだけだが)を走るつもりでいたがやめた方がよさそうだ。この日、スイセイとノブナガ君が一昨年前に事故で亡くなったカジヲ氏の墓参りに行くというのでオレはそれに便乗させてもらう事にした。ここ数年で何人かの仲間が事故で重い障害を負ったり逝ってしまったりという事が起きた。バイクはその楽しさ、面白さと同じだけのリスクを持ち合わせているという事を忘れてはならない。この先もずっと豊かなバイクライフを続けていきたいと思うならそのリスキーな部分をどう飼いならしていくかが最大のテーマといえるだろう。

 ノブナガ君の案内で香川県の屋島にあるカジヲ氏の眠る墓を目指して走る。連続するワインディングを二人のGSX-Rと9Rが気持ちよさそうに遠ざかっていく。やはり二人とも速い。シェルパではとてもついて行く事は叶わない。それでもちょっと悔しがっている自分がいる。悔しがっているというよりは羨ましいといったほうが正確だな。まぁもう少しの辛抱だ。あとひと月もすればホーネットが仕上がってくる。その時はロードの走りも今以上に楽しめる事だろう。そして今回、肝心のシェルパはというと・・・・家に戻りその状態をこまめにチェックした所、クラック部分はさらに広がりをみせて酷い状態になっておりました。こりゃ、エンジンの載せ換えを視野に入れてイチからやり直しだな。これでまたしばらくの間、ダートはおあずけですわ。ははっ。


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