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ホンダ
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こちらの動画が見られない方、もっと大きな画面で見たい方は、YOUTUBEのサイトで直接どうぞ。「http://youtu.be/18QdgcLyuts」 ホンダでは、このジャンルのマシンを“デュアル・パーパス”という名称ではなく、“クロスオーバー・モデル”と呼んでいる。開発にあたってのコンセプトは「オールロード・グランツーリスモ」。

 
Honda流・スノッブな
冒険スタイルに乗る。

 かつてトランザルプ、アフリカツインなどで、フレームマウントのカウルを備えたオン・オフのスポーツツアラーの世界を大きく広げたホンダにとって、久々のアドベンチャーモデル、VFR1200Xがリリースされた。

 スポーツツアラー、VFR1200Fをベースに、V4エンジン、アルミツインスパーフレーム、VFRの十八番でもある片持ちプロアームなどを用い、足周りはアドベンチャーツアラーらしくストロークアップを施したサスペンション、オフロード風味を匂わせるワイヤースポークホイールを履き、シャフトドライブを採用するなど、全体のムードは「世界のアドベンチャーツアラー」達と比肩するものとなっている。

 さらに迷彩をイメージさせるカラーリングを用いながらも、VFR1200F同様レイヤードデザインのモチーフを使うことで、ホンダの中でも先進性を持ったモデルのアイコンとして世界で認知されるVFRらしいIQの高さも同時に香り立つ上質なパッケージになっている。また、ミッションをDual Clutch Transmission(以下DCT)のみの採用としているのも特徴だ。

 2年前、WEBミスター・バイクでも国内で限定販売された、MUGEN仕様のVFR1200X、XDに試乗した。あのときのモデルと比べると、850mmあったシート高はサスペンションのショートストローク化、シートの改良で810mmへと抑えられている。これはNC750Xの830㎜よりも低いもので、足つき性の向上は言うまでもない。

 実際に跨がると183cmの僕だと両足は踵まで地面に届き、しかも膝は軽く曲がる。相当に足つき性はよい。ただ、2年前に試乗したVFR1200XDでは気にならなかったふくらはぎとステップの干渉が気になった。

 ウエイトは288㎏とかなりのものだ。しかし、バイクを起こす時などさほど重さが気にならなかった。重心位置の低さを感じる。足つき性、低重心の恩恵で手強さはない。小山のように見えるアドベンチャーツアラーを目の前にしてひるむ必要はなさそうだ。この2点においてVFR1200Xは優秀だ。

 エンジンを始動し、右のスイッチボックスにあるシフターでDレンジを選択。あとはアクセルを開けるだけでスムーズに走り出す。クラッチの接続を含め機械任せに出来るDCTは、走り出しから大きなアドバンテージを見せる。エンストの心配が皆無だから緊張感がない。その部分でも足つきが心配、というライダーにとって追い風になるはずだ。

 個人的にもDCTにポジティブな印象を持つ僕自分も、DCT未体験の時は、クラッチとシフトペダルの動きにアクセルを合わせてこそスポーツバイク、と思っていた。しかし、DCTを体験すると、逆にクラッチとシフト操作から解放されたことで、例えるなら、脳内にあるバイク運転用ハードディスクの空きメモリーが劇的に増大し、ものすごく感性の動きが軽くなったのだ。

 なので、VFR1200Xにマニュアルクラッチ仕様が何故無い! とはまったく思わないどころか、今や世界の激戦区でもあるアドベンチャーツアラーとしては、これくらいのスペシャリティーは必須では、と歓迎したい。

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「実際に跨がると183cmの僕だと両足は踵まで地面に届き、しかも膝は軽く曲がる。相当に足つき性はよい」。

 
都内を走る。
渋滞路を楽々走るのはDCTの恩恵だ。

 MUGEN仕様よりもスペック的には抑えられた国内仕様のVFR1200Xだが、その2500rpmから3000rpmあたりのトルクはスムーズで厚く、急かされるような事が無い。DCT同様、V4というエンジンスタイルもこのセグメントでは唯一。バイクの幅や重み、視覚からも目立つ存在感はない。ライディングポジションは、ハンドルバーの幅が広く、ライザーで手前に引かれている。ステップもリラックスできる位置にある。そして低いシートとの対比で高い位置にあるハンドルバーに手を添えるポジションも手伝って、速度を問わず扱いやすい。

 街中で唯一気になるのは、ある特定以上の路面からの入力に遭遇すると、サスペンションが硬めに感じることだ。シートの中にあるフォームの吸収性が高いようでゴツンという角のある衝撃は和らげられるのだが……。

 路面の悪い一般道から高速道路に上がればVFR1200Xはいきいきとしたクルーズで風を切り始める。ウインドスクリーンは固定式だが、低い着座位置も功を奏して防風性能は悪くない。また、シャフトドライブだけにチェーンノイズも無く静かな巡航を楽しめる。もちろん、駆動のクセなどもなく、アクセルに対する反応もスムーズだ。
 DCTの変速マナーもスムーズで急かすことがない。追い越し加速もさすが1200。右手を少し捻るだけでたいていの事は足りてしまう。100km/hでおよそ3000rpm、80km/hで2200rpmほどと、エンジン回転も低く抑えられている。

 車線変更や高速道路の大きなカーブなどでは安定感ある走行性を見せる。思い通りにラインを描くことは簡単だ。低い位置に座っているだけに安定感もある。とにかく気負わずに走れるのが魅力だ。

 1時間ほどの高速移動を終え、気分の良いツーリングルートに降り立った。アップダウンを繰り返しながら続くワインディングは、ある意味VFR1200Xのようなアドベンチャーツアラーにとって得意ジャンルの一つだ。旋回のキッカケを少し与えるとスっと気持ち良く曲がり始め、旋回中のリーンアングルもふらつくことなく安心感がある。それでいてオンオフタイヤと重たい車重を物ともしないグリップ感を見せ、気持ち良い。時おり、やはり足の固さが顔を出す場面があるのが玉にキズだが……。

 ワインディングから林道へと向かった。この手のバイクでダートを走る人は少ないですよ、とはよく聞く話だが、アドベンチャーツアラーとして生まれた以上、やっぱり試しておかねばならない(いえ、私が好きなだけです……)。

 基本的に重心が低く、自重があり、タイヤへの荷重をそれほど意識せずとも接地感とグリップが得やすいだけに意外と行けるのがこの手のバイクの持ち味でもある。基本的に林道はトラックも通る作業道。雨水で掘れた溝などがあれば状況は変わるが、実はさほど難しくないのだ。

 フラットな路面では実に吸い付くように走るVFRだが、路面のギャップ、段差があるような場面では速度を抑え、ギャップは常にアクセルをオンで乗り切りたいところだ。V4のトルクは厚く、後輪を滑らせるのはワケもないらしく、頻繁にトルクコントロールと呼ばれるトラコンが介入する。駆動力を落とす方向で介入するので、フロントの荷重を抜きにくい場面もあった。

 以前乗ったMUGEN仕様ではトルクコントロールをON/OFFという選択肢しかなかったが、国内仕様では3段階+オフという選択肢がある。ただサスペンションが固いため、やや接地性に劣り、デバイスに仕事をさせてしまうのは惜しい、と思った。

 あえてこうした道を通り、風景を楽しみ、充実感を得たいというユーザーも少なからずいるこのセグメントだし期待度も大きいだけに、あえて苦言として申し述べておきたい。

 二人乗り、パニアケースに荷物を詰めて、という状況も考慮したサスペンションのセットアップだけに、油圧プリロードアジャスターを数回転緩めるだけで印象が動く可能性もある。時間の都合で今回はそこまで様々な場面で試せなかったのが悔やまれる。

 VFR1200Xでこの日300キロ近くを走った。サスの固さが課題という印象が残ったが、アフリカツイン以後、首を長くして待っていたホンダビッグオフファンのためにもますます磨いて欲しいと思った。そしてこのセグメントの牽引役にもなってほしい。世界に多いホンダファン同様、国内にもこのセグメントにうるさいファンは少なくないのだから。

(試乗:松井 勉)

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マット調のカモフラージュ柄が印象的な外装。パネルにはレイヤードを用いたVFRらしい先進性も盛り込まれている。ウインドスクリーンは世界のアドベンチャーバイク事情に照らすと、手動で簡単に高さ調整できるのが今やデフォルト。次回マイナーチェンジの時にはアップデイトを期待したい。 外気温、燃費なども表示するメーター。気温計の下にある目盛りはトルクコントロールの強さを示したイメージ図。写真の“目盛3つ”は、もっとも介入度が高い状態。カウル左側にあるスイッチを押すと目盛りが1個ずつ減る。介入度は強、中、弱、となる。そしてスイッチを長押しするとオフになる。 トルクコントロールと印されたスイッチはカウル左側に備わる。トリップメーターの切り替え、リセットなどを含め、こうしたスイッチもライダーがもっとも操作しやすい位置に今後は変更してはどうだろう。走行中に瞬時に確実に安全に操作できることが望ましい。
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V4らしさを見て取るにはエンジン下部のエキパイの数を注意深く見るほか無い。アルミツインスパーフレームで囲われたエンジンはパッケージに影響を与えていない。 DCTはホンダだけが使う技でもある。街中からワインディング、そしてダートまでクラッチと変速を機械に任せ、ライディングに集中することができるなんて素晴らしいと思う。走る純度を上げてくれる装備だと感じた。
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プロアームとチューブレスタイプのリムを採用するホイール。スポークリムは冒険バイクらしいルックスを演出する。マフラーサウンドは間違い無くこのクラスではVFR1200Xだけが奏でるホンダ独特の音色だ。写真の上でクリックするとリアサスペンションのプリロードアジャスターが見られます。 φ43mmインナーチューブを持つ倒立フォークはカートリッジタイプ。伸び側減衰圧調整とイニシャルプリロード調整はフォークトップに据えられている(写真の上でクリック)。 ウインカー、テールランプはLEDを採用。コンパクトな灯具だが輝度があるため被視認性は高い。シート開閉のキーはテールランプ周りのこの位置に。
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右のスイッチボックスにあるドライブ選択スイッチ。ニュートラルからドライブ、よりスポーティーなシフトプログラムとなるSモード、そしてスイッチボックス前側にAT/MTの切り替えスイッチが備わる。左スイッチボックスには、マニュアルでシフトアップ、ダウンを行うためのスイッチが備わる。4輪でいうところのシフトパドルと同じ用途のものだ(写真の上でクリックすると前側のスイッチが見られます)。 シートフォームが適度にソフト、適度に腰があり座り心地が良いシート。パッセンジャー用のサイズも充分。シート下に別体タイプのETC機材が乗る。テールエンドに小物入れスペースがある(写真の上でクリック)。
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●VFR1200X 主要諸元
■型式:EBL-SC70●全長×全幅×全高:2,280×915×1,320mm■ホイールベース:1,590mm●最低地上高:165mm■シート高:810mm■燃料消費率:23.5km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時)17.5km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)■最小回転半径:2.7m■車両重量:288kg■燃料タンク容量:21L■エンジン種類:水冷4ストロークV型4気筒SOHC4バルブ■総排気量:1,236cm3■ボア×ストローク:81.0×60.0mm■圧縮比:12.0■燃料供給装置:PGM-FI■点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火■始動方式:セルフ式■最高出力:78kw[106PS]/6,000rpm■最大トルク:125N・m[12.7kgf]/5,500rpm■変速機形式:常時噛合式6速リターン■ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク■タイヤ(前×後):110/80R19 M/C 59V × 150/70R17M/C 69V■懸架方式(前×後):倒立テレスコピック式 × スイングアーム式(プロリンク)
■車体色:マットチタニウムブレードメタリック■メーカー希望小売価格:1,890,000円(消費税8%込み、消費税抜き本体価格 1,750,000円)
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