おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第48回 富士五湖の湖岸道路



MAP


富士山周辺の道についてすでに何度か書いたが、今回は富士山の東北~北西に散らばる富士五湖の湖岸道路やその周辺のことを記す。最大の山中湖、2番目に大きい河口湖、そして西湖、精進湖、本栖湖。すべて湖岸を一周できる道がある。これから新緑が美しい時期を迎える。もちろん、コーナリングを楽しむのも悪くないが、鮮やかに萌える樹葉を愛でながら、周遊したい。東京からだと、高速道路を利用すれば、日帰りでも富士五湖めぐりを楽しめる。

 以前、富士山周辺の道の時にも記したが、最初に富士五湖を訪れたのは40年前だった。5月の連休の頃、TX500を駆り、ひとり富士五湖めぐりの日帰りツーリングに出た。御殿場まで東名高速を使ったかどうか…。貧乏夜学生だったから国道246号線を走った可能性が高い。御殿場から国道138号線を北上し、籠坂峠でコーナリングを楽しんで山中湖岸に到着。その後、外周路を走ったのかどうかも定かでない。なんせ、ずいぶん昔のことなので…。

 それ以降、今日まで、個人的なツーリングでも仕事の取材でも富士五湖には数え切れないほど出かけている。まずは山中湖だ。ここ数年の内でも、何度か試乗や撮影で行った。三国峠や道志街道に向かった時も、御殿場から山中湖経由だった。北岸を走る県道729号線は南岸の国道138/413号線よりずっと交通量が少なく、距離は約6kmと短いが、天気がよければ湖面越しに富士山の雄姿を目にしながら走れて、気持ちがいい。

 山中湖の北西には忍野八海という観光地もある。富士山の伏流水を水源とする湧水池が点在し、天然記念物になっている。これまで、国道138号線を山中湖から河口湖に向かう途中、何度も「忍野八海」の標識を目にして興味は抱いていた。だが、実際に足を向けるまでの気持ちに至らなかった。取材の場合、余計な寄り道も出来ないし…。でも、去年の6月末、女房と1泊旅行に出かけたとき、是非と思い立ち寄った。平日にもかかわらず観光客で賑わっていた。様々な形態の池を巡るのは面白く、昼食の蕎麦も旨かった。



忍野八海


忍野八海
様々な形態の湧水池がある忍野八海。日本百名水に数えられる湧水も。こちらは、清流にかかる橋を渡るオヤジ、の図。 湧水池のほか、ほどよい規模と水量の清流もあって、渡る風は爽やか。散策するのがとても気持ちいい。これも去年、忍野八海を訪れた時のカットです。

 河口湖は湖岸が国道から少し離れているし、山中湖に比べると立ち寄りの頻度は低い。それでも、河口湖大橋は数回渡った覚えがある。また、甲府へ抜ける国道137号線を使って御坂峠に行ったことも何度かあった。御坂峠は80年代前半、ツーリングルートを紹介する企画で訪れ、その後個人ツーリングでも通った。直近では数年前、試乗で出かけ、峠の茶屋で一服して、写真も撮った。信州に旅に出かけた帰路、甲府から御坂峠を抜けて河口湖~御殿場まで国道を走り、東名高速に乗って帰京したことも2、3度あった。



河口湖
巨大なジェットコースターなどのアトラクションで有名な遊園地も近い富士五湖観光の大きな拠点が河口湖。富士山を望む撮影ポイントも多い●撮影-舟橋 朗

 富士五湖のうちで、もっとも高い頻度で世話になっているのは西湖だ。プライベートでは他の湖とあまり変わらないが、仕事がらみがとても多い。というのも、平日なら観光客は少なく、止まり写真を撮るのに適した場所もある。それに、国道139号線から湖側に入ると、南岸の県道710号線、北岸の県道21号線をつないで湖岸を1周できるのだが、多様なコーナーが続き、交通量も少ない。コーナリングが楽しめて、インプレ取りにも適しているからだ。

 ここ数年の間にも何度か取材で行った。直近ではヤマハのスーパーテネレを駆って西湖まで行き、未舗装の水際まで持って行って撮影した。外周路をすべて走った回数も五湖のなかで群を抜く。国道139号線沿いには道の駅「なるさわ」があり、付近の風穴や氷穴、蝙蝠穴などを見るために立ち寄る観光客も多い。そこで昼食を摂ったことも数回。そういえば‘80年代前半の頃、鳴沢林道で外国製250オフ車の比較試乗をしたこともあったなあ。

 精進湖は規模が一番小さく、外周路は10kmに満たない。国道139号線から分岐した国道358号線が東北岸を走り、精進湖トンネル手前で県道706号線に接続する。その県道を湖岸沿いに南下すると国道139号線に出る。この外周路は道幅が狭いのでのんびり走りたい。ふたつの国道の分岐点にある茶屋で、長野から来るバイク仲間と待ち合わせ、その後伊豆方面に向かったことがあった。逆に、他所を一緒に走り回り、そこの茶屋で別れたことも…。ただ、このところ西湖止まりで、精進湖まで足を伸ばすことは少なくなっている。

 五湖の西端にある本栖湖にも、昔は年に数回程度、取材かツーリングで訪れた。地理的に遠いが、それだけに観光客が少ないし、ロケーションがよく、走り写真も止まり写真も撮りやすい。80年代の半ばから後半にかけて取材で行ったときのことをいくつか鮮明に覚えている。女性向けの二輪誌の表紙の撮影をしたり、外国製400スポーツの比較試乗をしたり…。ちょっと面倒な事故に巻き込まれそうになったが、地元の方の助成でそれを免れたこともあった。

 本栖湖も国道139号線から分岐する国道300号線と県道709号線を使って外周を回ることができる。県道の南側は対向2車線で景色もよく、コーナリングが楽しめる。一方、西側の区間は精進湖岸の県道同様にセンターラインがなく、道幅が狭い。舗装林道のような道が樹林帯のなかをくねくねと続く。ペースダウンして、湖と茂る樹木など自然を楽しみながら走るのがいい。河口湖、西湖、精進湖もそうだが、本栖湖にも、お天気がよければ富士山の姿を拝むことができる場所があるから、バイクを停めて素晴らしい景色も愛でたい。

 書いているうちに、静かでより自然豊かな精進湖と本栖湖に久々に行ってみたくなった。5、6月の陽光溢れる日にでも出かけてみようかな。



R138


本栖湖
東名御殿場方面から山中湖、河口湖をつなぐメインルート国道138号線。冬期は降雪もありバイクは要注意。●撮影-舟橋 朗 一番西側が本栖湖。西に300号線、南へ139号線。北は358号線と、各方面へ抜けられる。●撮影-舟橋 朗


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、18年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万5000km。

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