World Veteran Motocloss

世界GPやAMAナショナルが開催されていることでも名高いグレン・ヘレン・レースウェイは、ロサンゼルスからフリーウェイを2時間ほど東へ走った町の郊外にある。この会場の象徴となっているのが『セント・グレン・ヘレン山』で、その麓に広がるコースは、ロングアップヒルとダウンヒル、広大なバンクと様々な形のジャンプを縦横無尽に繰り返しながら、巨大な星条旗がひるがえる山頂にまで達している。

世界GPやAMAでは超アクロバティックなコースもお目見えするが、このワールドVETのレースウィークに限っては“フシブシに不安のあるお年寄りライダーにも優しい”ジャンプ角や、ノービスライダーでも楽しめるレイアウトで配慮され、世界中の“達者な”モトクロスフリークを迎え入れるのだ。

クラスは30歳から80歳まで5歳刻みの年齢別と、ノービス・中級・上級・プロの技量別に分かれて、当日エントリーもOK。もちろんマシンは自由、トランスポンダー使用でゼッケンも好きな番号で。

国を越え、年齢を越えてライダー達がレースを楽しむ。英語にフランス語、スペイン語、そして日本語が飛び交う。
国を越え、年齢を越えてライダー達がレースを楽しむ。英語にフランス語、スペイン語、そして日本語が飛び交う。

そんな気軽さと雄大なコース、華やかな雰囲気が人気を呼んで、今年で27回目を迎えた。エントリーは北米・南米はもちろん、ヨーロッパやアジア・オセアニアからも増え、国際イベントとして定着して盛り上がっている。

急傾斜バンクの第1コーナーからホールショットバトルを盛り上げるビッグジャンプ。
急傾斜バンクの第1コーナーからホールショットバトルを盛り上げるビッグジャンプ。
コーナーはとにかく大きく、ストレートはとにかく長い。1周すべてに全開、また全開。
コーナーはとにかく大きく、ストレートはとにかく長い。1周すべてに全開、また全開。

かつてWGPやAMAナショナル、モトクロス・デ・ナシオン(現在のモトクロス・オブ・ネイションズ)などで活躍したレジェンド達が一同に集まるのも、ワールドVETならではの光景だ。

現役当時は日本でもその活躍が大きく取り上げられ、そして今なお元気に走っているのがゲイリー・ジョーンズ(60歳)、チャック・サン(55歳)、ダグ・デュバック(48歳)、カート・ニコル(46歳)、ロン・ラシーン(44歳)、ライアン・ヒューズ(37歳)といった面々。彼らの走りは、年月を経ても“あの時代”をほうふつとさせる洗練されたテクニックとスピードで、各年齢別のプロクラスやエキスパートクラスでトップ争いを披露している。当然のことながら今も大スター達だが、他のエントラントとピットを並べ、ファンとの距離はとても近い。

もうひとつ、ワールドVETでは珠玉の歴史に触れるプログラムがある。1997年から制定された『エディソン・ダイ・モトクロス・ライフタイム・アチーブメント・アワード』で、これはいわゆる、“これまでのアメリカモトクロス界に貢献した人に贈られる功労賞”といったものだ。

日曜の昼休み、観客スタンド前の台形ジャンプの上で、ワールドVETの創立者トム・ホワイト氏司会による式典がおこなわれる。近年の受賞者はジョエル・ロベール氏、ブラッド・ラッキー氏、ブロック・グローバー氏、そして今年受賞のデビッド・ベイリー氏など。本人とゆかりのある人々も祝福に駆けつけ、現役当時の思い出話などを発表する。

チャンピオンの功績、モトクロスの歴史がこうして明確に語り伝えられていく。

こういったレジェンド達の中には、マシンテストや日本GPへのスポット参戦、ジャパン・スーパークロスなどで来日経験のあるライダーも少なくない。今でもみんな決まって「ニッポンは良かったなァ、とても懐かしいよ、また行ってみたいなぁ」と言うのだった。

左からゴードン・ワード、ダグ・デュバック、カート・ニコルの40歳代プロクラス表彰台。顔はオジサンだが速い。全日本IA1を走ったらきっと勝っちゃうくらいに速い。
左からゴードン・ワード、ダグ・デュバック、カート・ニコルの40歳代プロクラス表彰台。顔はオジサンだが速い。全日本IA1を走ったらきっと勝っちゃうくらいに速い。
サイレンサーメーカーDRDの社長、ダグ・デュバックが今年もまた40歳代プロクラスを
ぶっちぎりで勝利。
サイレンサーメーカーDRDの社長、ダグ・デュバックが今年もまた40歳代プロクラスを ぶっちぎりで勝利。
昨年30kg以上のダイエットに成功してレース復活を果たしたロン・ラシーン。
昨年30kg以上のダイエットに成功してレース復活を果たしたロン・ラシーン。
ロン・ラシーンの懐かしの“腕まくり走行”は健在。現在はマキシマオイル社を経営す
る実業家だ。
ロン・ラシーンの懐かしの“腕まくり走行”は健在。現在はマキシマオイル社を経営す る実業家だ。
日曜の昼休み、アメリカモトクロスへの貢献を称える授賞式がおこなわれる。2010に年受賞した元AMAチャンピオンのブロック・グローバー氏(写真中央)。
日曜の昼休み、アメリカモトクロスへの貢献を称える授賞式がおこなわれる。2010に年受賞した元AMAチャンピオンのブロック・グローバー氏(写真中央)。
今年はデビッド・ベイリー氏が受賞した。こうしてレジェンドの歴史がファンの心にも刻まれていく。
今年はデビッド・ベイリー氏が受賞した。こうしてレジェンドの歴史がファンの心にも刻まれていく。

このワールドVETには、もちろん日本人ライダーも参戦している。その筆頭が、ガッツ・ヒデアキこと鈴木秀明さん(63歳)。'70年代の全日本チャンピオンである秀明さんは、'99年と2000年にワールドVET の50歳以上エキスパートクラスのチャンピオンを獲得した。現在は60歳以上クラスに挑戦中で、会場でも「ヒデアキ・スズキ」は有名人。

その秀明さんに「面白いゾ!」と誘われてすっかりヤミツキになってしまったのが‘86年全日本チャンピオンの伊田井佐夫さん(55歳)だ。同年齢のチャック・サンという大物ライバルにも恵まれ、ここ数年2人のトップバトルが注目を集めていたが、今年はとうとう土曜の55歳以上エキスパートクラスで2ヒートともチャックを押さえ、念願のチャンピオンに輝いた。

60歳エキスパートクラスで活躍の鈴木秀明さんのピットに、30プロクラスのスター、ライアン・ヒューズ(左)が挨拶に来てくれた。
60歳エキスパートクラスで活躍の鈴木秀明さんのピットに、30プロクラスのスター、ライアン・ヒューズ(左)が挨拶に来てくれた。
秀明さん、はりきってホールショットからトップバトル。まだまだあの頃の走りは健在だ。
秀明さん、はりきってホールショットからトップバトル。まだまだあの頃の走りは健在だ。

2日間ともに連続のホールショット炸裂で目立っていた伊田さんだが「でも日曜は2歳上のカナダ人ライダーにヤラレて世界2位だった。悔しいけれど楽しくてね、また来年挑戦します。ここへ来ると70歳代のおじいちゃんが大勢、全開で走っていて驚きますが、50歳代はまだ若者だなんて言われる。あー、何歳になってもずっと乗っていていいんだなって」。

他にも、ワールドVETに魅せられ毎年のように参加している日本人ライダー達の活躍が知られるようになってきた。現地のレンタルバイク利用で気軽に参加できるため、今後は日本からのエントラントも増える気配。モトクロスを愛する中高年たちよ、夢は世界へ、カリフォルニアのでっかい空の下で全開しようではないか!

激しいバトルは伊田さんの勝ち。でもレース後はご覧の通り和気あいあい。
激しいバトルは伊田さんの勝ち。でもレース後はご覧の通り和気あいあい。
#130カミカゼ伊田井佐夫さんは、AMAナショナル500チャンピオンの#63チャック・サンと大激闘、今年は伊田さんに軍配が上がり世界1位を獲得。
#130カミカゼ伊田井佐夫さんは、AMAナショナル500チャンピオンの#63チャック・サンと大激闘、今年は伊田さんに軍配が上がり世界1位を獲得。

       | このページのトップへ |