順逆無一文


『溜金三欠』

 任意保険の継続手続きをした。ネットですれば保険料が割引になるので、ここ数年はネットで継続手続きをしている。で、今回も継続のご案内メールが来たので、さっそく継続手続きのページへ行くと、なんだか保険料が高くなっている。

 以前は「現在の契約と同等条件のプラン」と、ちょっとカバーが広くなる「おすすめのプラン1」や、“もっと安心”の「おすすめのプラン2」などと、いくつかのプランから選べるようになっていたはず。それが、今回は「現在と同等」が無くなってしまって、おすすめのプランが二つ提示されているだけ。もちろん高い額の。

 そういえば、昨年“等級据え置き事故”を経験しているので、高くなったのはその関係かと思ったのだが…。その名の通り“等級据え置き”事故だったので等級の所は変わっていない。じゃあ何で高くなったのだろう、とサポートへ電話してみた。

「“前年無事故割引”がなくなってます。それと保険料自体も昨年から若干上がってますので」との返事。

 実は不勉強にも“等級据え置き事故”というのは、飛び石やいたずらなど、運転者に責任の無い事故被害をきっちり救済してくれるモノだとばっかり思っていた。そう、賢明なる読者の方なら先刻ご承知、“等級据え置き事故”というのは、あくまで等級を据え置いてくれるだけで、ペナルティはしっかり存在するんですね。

 ちなみに“前年無事故割引”の項目を調べてみると、
『前契約の保険期間中に事故がなかった場合に保険料を割り引きます(前契約が他の保険会社等の契約であっても適用できます)。なお、“事故”とはカウント事故および等級すえおき事故のことをいい、ノーカウント事故は含みません』。

“カウント事故”とは、
『等級すえおき事故・ノーカウント事故以外で、保険金を請求した事故をいいます。なお、翌年のノンフリート等級は事故1件につき3等級下がります』。
ま、世間一般普通の事故だ。

 じゃ“等級すえおき事故”とは、
『車両保険事故で次の原因によるものをいいます。なお、翌年のノンフリート等級は、現在の等級と同じ等級を適用します。
1)火災または爆発(注1)
2)盗難
3)騒じょうまたは労働争議に伴う暴力行為または破壊行為
4)台風、たつ巻、洪水または高潮
5)落書、いたずら(注2)、窓ガラス破損
6)飛来中または落下中の他物との衝突
7)上記以外の原因による偶然な事故(注3)
(注1)飛来中または落下中の物以外の他物との衝突もしくは接触または転覆もしくは墜落によって生じた火災または爆発を除きます。
(注2)被保険自動車の運行によって生じたもの、他の自動車等との衝突・接触により生じたものを除きます。
(注3)他物との衝突もしくは接触または転覆もしくは墜落によって生じた事故を除きます』。

 これが昨年経験した“等級据え置き事故”だ。これを見ると、全て運転者の注意や意志をもってしてもどうにもならない“不慮の事故”といえるものばかりなのだが。

 そして、本当にペナルティの一切ない“ノーカウント事故”(等級に影響しない事故)というのは、
『ノーカウント事故とは、以下の補償に係る保険金のみお支払いした事故をいいます。なお、ノンフリート等級制度では事故件数としては数えず、翌年のノンフリート等級は1つ上がります(ノンフリート等級は20等級が上限です)。
1)搭乗者傷害保険
2)人身傷害保険
3)無保険車傷害特約
4)弁護士費用補償特約
5)原付特約
6)ファミリー傷害特約
※事故の種類・事故の内容については、損害保険各社により扱いが異なる場合があります。対人事故のうち、被害者へのお見舞い金等の臨時費用のみお支払いした事故についてはノーカウント事故として取り扱います』。

 現実問題として、“原付バイク特約”をかけていて事故を起こしたという例を除けば、それ以外は単独ではあり得ないような事例ばかりのような気がする。

 それはともかく、私のように“等級据え置き事故”は運転者には責任のない事故なのだから、ペナルティは無い、と思っている方がいたらご注意を。

         ※

 で、ついで任意保険という重箱の隅をつつき回していたら、とんでもない情報がひっかかった。

 それは、2013年の4月1日以降、任意保険に入っているからといって、うかつに事故を起こそうモノなら、3年間は大幅にアップした保険料に泣かされることになる、というおハナシ。

 任意保険のシステム見直しが行われるというのだ。いや、すでに“秘密裏?”に今年の4月1日に新制度自体は導入されてしまっており、今はその新制度への猶予期間として1年間に限り、従来の制度が実施されているだけなのだという。

 来年の4月1日以降(保険会社によっては10月から新制度の契約になるという説も)、事故を起こして保険のご厄介になると、今までのように等級が3段階下がってしまうのはもちろんのこと、さらに割引率自体も3年間は大幅に減らされてしまうことになるという。

 これまでなら、単純に等級が落ちることで割引率が減らされてしまうだけで済んでいたのが、来年4月からは事故を経験した人と、無事故の人では、同じ等級でも割増引率に1.5倍から2倍程度の差が付くようになる(スタート時の等級である6等級は-19%で、事故の有無で異なることはないが、7等級では事故がなければ-30%の所が事故有りで-20%に、8等級では-40%が-21%に!)。
  
※損害保険料率算出機構【自動車保険】参考純率改定のご案内、資料より。

※損害保険料率算出機構【自動車保険】参考純率改定のご案内、資料より。


 ちなみに新制度導入にあたって保険業界の大目付、保険料率を決定している“損害保険料率算出機構”(損保関係の現場データを元に、保険業務の収入と支出のバランスを計算して保険料率の指標を出す組織。ここが出す料率を元に、各保険会社が運営経費や利益等を上乗せして保険商品を作り、売り出している)の説明によれば、

「現行制度では、前年の事故の有無にかかわらず、同じ等級の契約者であれば同一の割増引率を適用しています。しかし、前年事故があった契約者(事故有契約者)は負担している保険料と比較してリスク実態(保険金の支払状況)が高く、前年事故がなかった契約者(無事故契約者)は負担している保険料と比較してリスク実態が低くなっております。これは、事故有契約者に適用される保険料が不足していることを意味しており、現行制度では事故有契約者が本来負担すべき保険料の一部を無事故契約者が負担している構造にあります」。

「損害保険料率算出機構では、保険契約者間の保険料負担の公平性を確保するため、自動車の用途・車種をはじめ、契約者の過去の事故歴などに応じた区分(制度)を設け、それぞれの区分のリスク実態に見合った自動車保険の参考純率を算出しています。参考純率は、各区分の保険料がそれぞれの区分のリスク実態と一致することによって健全な保険収支が維持されることが期待されていますが、そこに乖離が生じ、契約者間の保険料負担の不公平性が生じていると見込まれる場合には、各区分における保険料や区分自体の改定が必要になります」。

 ということで今回、等級別料率制度の改定を行なったそうだ。で、ここまでちゃんと読んでいただいた方、疑問を持ちませんでしたか。

「本来保険って、万が一事故を起こしてしまった人の負担を、みんなでカバーできるようにする仕組みだったのでは?」と。

 この損害保険料率算出機構の説明を突き詰めていくと、事故を起こした人間はどんどん高い保険料を払いなさい。事故を起こさない人から回すわけにはいかないので→事故を起こす人間は保険から排除、事故を起こさない人間とだけお付き合いしましょう。

 そう、最近たびたび耳にする「保険会社から継続を拒否された」というハナシにつながっていく気がする。毎年のように事故を繰り返すような“悪質運転者”に限ったものならそれも仕方ないのかも知れないが、なんだか損害保険料率算出機構の説明を聞いていると、儲からない客はどんどん脱落してもらって、保険料を払ってくれるだけで保険金を使うことのない“儲かるお客さん”だけ残ってもらいたいと考えているんじゃないかと勘ぐってしまう。万が一の時に安心、のための保険が“使うと恐ろしい保険”になっていく。

 まあ、それは何も今回に始まったことじゃなくて、かつて若者の事故が多かったからといって若年層の保険料をバカ高くして二の足を踏ませていたのと同じことだろう。昨今、若者のクルマ離れが始まったら、きびすを返すように今度は「高齢者の事故が増えてますので高齢者は割増」ときた。

 突然冒頭の、任意保険の継続のハナシに戻るが、「前年無事故割引」だけが値上げ要素だけじゃなく、電話受付の女性がかなり言いにくそうにしていた返事からは、保険料アップの一部がどうやら高齢者割増も原因となっているらしい。

 自らの安全運転への努力や注意などではどうにもならない理由、年齢で差別するような制度がまかり通っていることからすれば、現実問題として実際に事故を起こした人間から多くを徴収するというのは、まだましなシステムなのかも知れない。しかし、保険本来の“互助システム”の理念をまったく度外視し、とにかく利益第一でリスクはどんどん切り捨ててしまえ! と考えているとしか映らない保険制度の変更はいかがなものだろう。“リスク細分保険”などと喧伝している新しい保険もその片棒を担いでいる。

 まあ、WEBの保険比較サイトなどを利用して安いからという理由だけで保険を選んでしまう我々利用者の側にも問題あり、ですね。

 自賠責すら入らない人間など言語道断ですが、保険料を払えないからと任意保険をあきらめてしまう人が増えなければいいのですが…。

(小宮山幸雄)

※新制度では“すえおき事故”は廃止され、同等の事故内容で1等級のダウンとなり、1年間は事故有契約者としての割増引率適用に変更となるそうです。

小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は“閼伽の本人”。 


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