バイクの英語

第25回 to see a man about a dog
(トゥ シー ア マン アバウト ア ドッグ)

 コクリコ坂~がDVDになってるそうです。三鷹のジブリの美術館が建っている地域に住んでいたし、スタジオジブリの近所に友達が住んでたこともあり、さらに100円ショップで宮崎さんを見かけることもあって、ただジブリ作品が好き、という感情ではなく、なんとなくもう少し親密な気持ちで「ジブリが好き」な筆者です。
 ナウシカはもちろんとってもステキで、アレを見てから将来は絶対ハンググライダーとかパラグライダーの免許をとろうと思って、今もその思いは強く持っています。風の谷のインスピレーションにもなったという、オーストラリア中心部のオルガ石群も見に行きました。
 ラピュタは子供心に最初はちょっと暴力的でおっかなかったですが、大人になるにつれて好きになりました。ドーラの一味に加わりたいと思ったもんです。
 魔女の宅急便もまたステキでね、おソノさんのパン屋さんはタスマニアに実在するらしく、それも見に行きたいのですがまだ実現してません。
 で、もちろん男なら憧れる「紅のブタ」。女の子には「男の人は好きだよね~」となんとなくバカにしたような感じで言われることが多いのですが、そのたびに「何を言うか、あのロマンがわからんか!」と言い返していたのに、以前にテレビでやってたジブリのドキュメンタリーによると、あの映画は酸素が薄くて思考回路が鈍くなってる飛行機の中でも楽しく観られるように、単純に作ったと紹介されていました。なんだ、じゃやっぱり男は単純なのが良いってことなんですね。
 その後、千と千尋だとかモノノケ姫だとかが出てきて、なんだかちょっと理解しにくくなっちゃったのだけど、不屈の名作「トトロ」に関しては、実家がまさにあんな感じなので最初から親近感があって、しかもトトロぐらいは実在するだろうと疑っていません。山深い土地で育つと小人の存在だって現実的で、コロボックルなんていう生き物も実在するんじゃないかと思っています。そんな時に出たのがアリエッティで、かわいらしくてけっこう好きでした。
 ジブリ作品にはメッセージ性がある、なんてことを大人は言いたがりますが、子供からしてみればそんなことはわかってて、いちいち大人がわかったふりしてそんなことを言ってるのがこっけいに感じたものです。では、アリエッティに隠れてるメッセージはなんだろな?
 これが単純で、「ほっといてくれ」なのだと思います。小人を見つけて盛り上がってビンに閉じ込めるおばちゃんの行動は、映画でみると小人の立場から観ちゃうから悪い人に感じるけれど、それは人間として普通の行動。だけど例え小人の存在に気づいてしまっても、気づかないフリをしておくのが大切なのじゃないかと思うわけです。お互いほっといてくれればヨシナに生活ができるのだから。
 こんな話をすると「いやいや、もっと大切なメッセージがある」と言いたがる人も多いのだけど、「ほっといてくれ」というのは実はとっても大切なメッセージ。今回の英語はそういった場面で使う一言です。

to see a man about a dog

直訳すると
「犬について男に会いに行く」
という意味です。
 これは誰かにどこへ行くの? とか何しにいくの? と聞かれた時に返す言葉です。これは行き先や目的を明かしたくない時に答える言葉として使われるフレーズ。よく使われるシチュエーションとしてはトイレに立つ場合や、パブに行く場合など、なんとなく行き先を濁したい場面。しかし一方で使い方や言い方によっては「おまえには関係ない」「詮索するな」というちょっと強めの表現にもなります。

 語源には諸説ありますが有力なモノを一つ。

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 to see a man about a dog の他に類義語としてto see a man about a horseというのもあることから、競馬もしくはドッグレースに関係のある言い回しという説が有力。馬にせよ犬にせよ、古代よりレースに使用され、かつそれはギャンブルと密接につながっていたため、常に怪しい取引や八百長まがいのことが行われていた。よって犬のオーナーや調教師は連携をとり、この難しいレースの世界を生き抜いていかなければならなかった。

 これらの世界がギャンブルに起因する難しさがあることは一般人でもわかっていたことであるし、さらにギャンブルに関係している人間には多くの秘密がある事も周知の事実。よって「男に」「犬について」「会わなければいけない」となるとそれ以上の詮索はやめておいた方がいいというニオイがぷんぷんとするわけである。

バイクの英語
写真はもちろんイメージです。

 しかしこの言い回しが定着するにつれ、違法行為に関わっている可能性があるから詮索するな、という使われ方もし、麻薬の密輸や密造酒の取引にも使われるようになり、「これ以上は聞かない方がアナタのためだ」という意味で使われるようになった。もちろん今でも違法行為に関わる人も使う言い回しだろうが、今となっては一般化し、前記のようにトイレに行く口実などに、広く使われる表現となった。

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 いかがでしょう。まさにアリエッティのメッセージにピッタリでしょう。詮索せずにほっておいてくれ、と。
 ちなみに筆者はいわゆる「ガイジン」なわけですが、もう日本も長いので言葉も立ち居振る舞いも全て日本人。それなのに見た目が外人であるため、初対面の人でもすぐに「なにじん?」と聞いてきます。これは大変に失礼だと思うし、そもそも答えに困る。素直に「産まれは埼玉県ですし育ちも日本なので日本人として見てもらえれば」と答えても納得する人は少なく「じゃ両親はどこの人? ハーフ? お父さんはどこの人? お母さんは? 今も日本にいるの?」とたたみかけてくる。一回目の返答ですでに「これ以上はあまり言いたくないな」という雰囲気をちゃんと示しているはずなのに、それを汲み取ろうとしない。
 こんな話をすると「素直に言えばいいじゃん」という人もいるけど、個人情報や生い立ちを言う必要は一つもないわけだし、生い立ちについては話したくないことだってたくさんある。関西弁の人に会って、会って5秒で「大阪のどこ? ご両親は?」なんて聞くのは、やっぱりなんだか失礼じゃないですか。遠慮や奥ゆかしさが日本文化の一つの魅力のはずなのに、見た目がガイジンだとそういうリミッターは解除されるようですね。
 日本語でもto see a man about a dog のように、やわらかい表現で「それ以上は詮索しないで」という言い回しがあればいいのにな。でもto see a man about a dogは「どこへ行くの?」という問に対しての答えですので、正確にはこの場合は使えないか……。

筆者 
ロメイン・ダメージャン
 二重国籍を持つクルマ好きで、ナニジン? と聞かれると自分でもなんて答えていいのかわからない。そんな迷いから先日ベルギーで参戦したレースにおいてクラッシュを喫している。愛車はスズキのコレダスクランブラー。ジブリで一番好きなのは「となりの山田くん」。シーザーサラダが大好物。


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