バイクの英語

第26回 Rocking horse shit(ロッキンホース シット)
Hen’s teeth(ヘンズ ティース)

 絶対数が少ないものはどうしても高価になってくるでしょう。バイクの世界でも一緒で、今は一部のマニアだけでなく広くファンを集めている旧車・絶版車の世界もおおよそその理論が当てはまる。数が少ない物は入手することが難しく、よって高価になる。当然現存する絶対数よりも欲しがる人が多いことで成り立つ理論だけどね。

 例えば、そうだなぁ、パラツインの250Γ。しかも初期型のヤッコダコじゃなくてその次のヤツ。あそこらへんになると現存数は恐ろしく少ないはずなのに、欲しがる人もまた恐ろしく少ないからあまり高価にならない。大型バイクでもそうで、例えばCBR750エアロやGPX750なんてバイクは性能もとても高いし現存数もとても少ないけれど、欲しがる人も少ないからやっぱり高価にはならない。

 一方でそれなりに存在するんだけど、欲しがる人も多いというパターンも。例えばCB400SF。あれはもう登場して20年で、しかもいくらでも中古車もあるのに価値がゼロにならない。バイクは10年落ちるとだいぶ価値が下がり、20年落ちると「もうエンジンもかからないし、持って行っていいよ」となることが多い。だけどスーパーフォアはならないね。初期型でも15万~20万ぐらいで取引されることが多い。AX-1なんかもその傾向。当時は不人気だったし、今も人気とは言えないけれど、売られているものは案外いい値段がついている。そのよさを知っている人が多いのでしょう。

 さらに、どこにはめていいのかわからないパターンはスズキのSV650。国内仕様はカウル付きとカウルなしが展開されたけど、これが不人気で全体で1000台チョイしか売れなかったとかいうハナシ。そのうち8割がカウル付きだったっていうから、じゃ1000台のハナシが本当だったとするなら普通のカウルなしネイキッド仕様のSV650はわずか200台しか存在しなかったというコト。でもその時は売れなかったけどSVはとてもいいバイクな上、興味がある人はみんなそれを知ってるため、中古車はけっこうボロくても安くならない。ヤマハのSDRなんかもこのパターンかな? でも書いているうちにAX-1も同じに思えてきた……

 バイク本体だけじゃなくて、面白いのはパーツの世界。「当時物」なんていう言葉がもてはやされ始めたのはここ10年ぐらいだと思うけれど、特にバイクブーム前夜ぐらいに乱立した様々なパーツメーカーのパーツが恐ろしく高値で取引されていることがある。マフラーはその筆頭。集合管では腹下にガリキズがあろうが、エキパイに焼けがあろうが、エンブレムがしっかりしてて本物だとわかれば20万~30万なんてことだってある。カウル類もそうだね。各メーカーで微妙に形状に個性があったのでしょう、そんななかで珍しい物を見つけようもんなら多少キズがあろうが割れていようがびっくりするような価格で取引されることがある。

 広い意味では今のZ1人気などもこの傾向があって、今はフルオリジナルが大切にされ始めた時代。さすがに貴重なマシンなのでノーマルを大切にしようという動きは歓迎したいと思うけれど、そのフルオリジナルという定義がまちまちでしょう。シートやタンクが出荷時についていたものかどうかぐらいは見当もつくかもしれないけれど、サイドカバーなど取り外しが容易なものになると判断が難しい。そうなると、エンジンが開けられていないものをフルオリジナルとしようか? うーん。ペイントは比較的わかりやすいかもしれない。純正ペイントはけっこう味が出てて、リペイントよりもステキに見えることも少なくない。まさに「当時物」の塗装はなかなか価値があるのではないかとも思う。

 一方で当時物などと言ってられないのがゴム部品。各部Oリングやガスケット類は当時物にこだわってたらバイクを走らせられない。それが展示車だったら新車当時のタイヤやバッテリーがついてても資料的に貴重だけど、数十年前のタイヤをつけて走る事なんて考えたら危なくてやってられない。

 まぁ、消耗品のことはともかく、オリジナルに近い絶版車はやっぱり絶対数が少ないわけで、よって高価になる。一部を除いて、基本的に「珍しい=高価」なのだ。
(逆転のパターンで珍しすぎて価値がないのもあるけどね。珍しすぎてパーツや情報がなく、もはや走らせることが不可能といった車種などがそれに当てはまります)
 そんな珍しいものの珍しさを示すのが今回の英語。


Rocking horse shit


Hen’s teeth

です。

 前者「ロッキングホース シット」とは、「木馬のクソ」という意味。木馬とは子供が遊ぶアレです。あの木馬のクソは……まぁ珍しいでしょう。少なくとも筆者は見たことがありませんし、持ってる人を知りません。
後者「ヘンズ ティース」とは「雌鳥の歯」という意味。これもまた珍しい! ヤフオクにも出品されたことはないのではないでしょうか。

 いずれもイギリスで使われている言い回しですが、確実に存在しないものなのはもちろんのこと、例え存在したとしても価値のないものをそのように使う所にイギリス人のユーモアが見て取れます。そう、珍しいものなんてそれに価値を見出せない人にとってはただのゴミ。この表現を使う事で、同時に珍しさに駆られて高い価格で品物を購入する人をニヒルにからかってもいるのです。

 日本バージョンで言えばなんでしょうかね。「デンデン太鼓のバチ」とか、「竹トンボのエンジン」とかでしょうか。ま、素直に木馬のクソと雌鳥の歯を使ってもイイでしょう。ヤフオクで怪しい当時物に財産をはたきそうになっている友人がいたら、さりげなくこの言葉をかけてあげて下さい。

 ちなみに数年前、確かジョン・レノンが一口かじってトースターに戻した(とされる)パン切れ&トースターのセットがオークションにかけられたそう。これがとんでもない価格で落札された。トースターはともかく、パンはバイクで言う所のゴム部品でしょう!? それを一体どうしようというのか……(笑)

※    ※    ※

 

筆者 
ヨリー・レアナンデス
 カワサキ信者で、V型やクロスプレーンに普通の直ヨンで挑みたい! とZX-10R改でレース参戦中。スペインでモタード競技をしていたけど、最近ロードに転向。どうしてもレア好きが先に立ってしまって、レース結果よりは珍しいマシンに乗りたい気持ちが強いよう。ブレーキディスクはガルファー、ヘルメットはスコーピオン。木馬グソと鳥歯を探して毎日スマホでヤフオクをチェックしている。コロンビア出身。


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