湯めぐりみしゅら~ん


第26湯 上州南部の温泉

 8月中旬に山形北部へツーリングに行って以来、別冊の制作やらアメリカまで取材に出かけるなど仕事が立て込んだために、ツーリングがまったくできなかった。少しでも時間ができたらと願いつつ秋が過ぎて冬になり、長距離ツーリングはツライ季節になってしまった。550湯まであと一歩。できれば年内に達成したいと思いつつ、2012年も残り僅かになっていた。そんな師走のせわしない中、なぜかぽっかり時間ができた。これは行くしかないと日帰りツーリングを決断した。

 雪が降っていないことと、高速を使って1〜1時間30分ほどで行ける場所ということで(そのくらいの範囲でないと、寒さに耐えられない)、当初、伊豆半島にしようかと思ったが、すでに入湯している温泉が多いためにパス。悩んだ挙句、関越道を使えば1時間ほど、自宅からでも1時間30分ほどで行ける群馬県の藤岡市周辺の温泉を巡ることにした。

 世間がクリスマスを謳歌している12月24日に作戦決行、まさにクリスマス湯巡りツーリングであり、自分へのクリスマスプレゼントとなった。少し陽が出てきた午前8時に出発。関越道に乗り、完全防寒しているものの、やはり寒さは身に染みる。途中休憩を挟んで午前9時50分に藤岡インター着。ここから県道13号線、県道175号線、県道71号線を通って最初の目的地である藤岡温泉ホテルを目指した。インターから30分ほどで目的地に到着。身体はすでに冷え切っている。一刻も早くお湯に浸かりたい気持ちを抑えつつ、受付に向かった。

 受付で入浴したいと伝えると「日帰り入浴は13時からとなります」という非情な返答が。下調べした段階ではそんなことなかったはずなのに…。仕方ないのでトボトボと駐車場まで戻り、藤岡温泉ホテルに向かう途中にある猪ノ田温泉「久恵屋旅館」に行くことにした。県道71号線、県道175号線を戻り、途中分岐した林道を進むと猪ノ田温泉「久恵屋旅館」が見えてきた。

 猪ノ田温泉「久恵屋旅館」は群馬県藤岡市下日野にある温泉旅館だ。周囲を山々に囲まれた和風作りの建物が印象的な一軒宿だ。玄関を開けると、感じのいい女将さんが出迎えてくれた。入湯料は600円。廊下を通って早歩きで浴室に向かう。脱衣場に入るや速攻で服を脱いで浴室に。身体を洗い流し、湯船に浸かった。あ〜、ようやく寒さから開放された瞬間。指先、つま先、身体のあらゆる先からジリジリと温まってくる。湯船は大きくないが、たっぷり注がれている無色透明のお湯はぬるすべ感があって柔らかい。う〜ん、気持ちいいぜっ! 

 しばし身体をリボーンさせて気合を入れたところで次なる目的地である湯端温泉へ向けて出発。県道175号線を藤岡方面に戻り、県道173号線から県道41号線に入り、牛伏山方面に少し入ったところにある湯端温泉に到着。看板が掛かっている真新しい建物は、旅館や日帰り入浴施設というよりまるで民家のような佇まいだ。個人的にはこういう温泉のほうがドキドキ感があって面白い。

「湯端温泉」は群馬県高崎市吉井町にある一軒宿の温泉旅館だ。玄関を開けると、若い主人が出迎えてくれた。入湯料は600円。入浴したいと伝えると「内風呂(ホタルの湯)にしますか? 源泉が流れる湯端の湯(離れ)にしますか?」と丁寧に聞くので、「源泉の出ている離れでお願いします」と即答したら、「それでは準備してきますので、中でお待ち下さい」と休憩室に通された。ここは旅館、日帰り入浴だけではなく、カフェも併設しているようだ。待つこと約5分、準備ができたというので玄関を出ると、入口横にある小屋が浴室のある離れで、お湯がぬるくなってきたらボイラーで温めてくれとのこと。

 離れに入って服を脱ぎ、浴室に入ると湯船から湯気がいい具合に立っていた。浴室そのものは小さいが、風情のある温泉旅館の浴室を小さくしたような感じだ。身体を洗い流し、こじんまりとした湯船に浸かる。源泉がナトリウム塩化物冷鉱泉なので沸かす必要があり、私が来るまで先客がいなかったために、温め直したものと思われる。寒い中走ってきた者としてはありがたいことだ。無色透明のお湯は適温になっており、温める必要は感じなかった。浴室の作りや気配りのいい接客の丁寧な主人など、アットホームな温泉だ。

 今まであまり体感したことのない温泉だった湯端温泉を出発。途中、小雪が舞ったが一瞬で止んでしまった(ネタ的には、この後ドンドン降って大変なことになってほしかったが…)。県道41号線から国道254号線に入って下仁田方面に進み、福島東交差点から上信越自動車道方面に向かったところにある甘楽温泉「かんらの湯」に到着した。

 甘楽温泉「かんらの湯」は群馬県甘楽郡甘楽町の甘楽町総合福祉センター内にある日帰り入浴施設だ。入湯料は600円。館内は地元のご老人たちで賑わっていた。浴室は広々として窓も大きく開放感がある。大きな湯船には無色透明で適温のお湯がたっぷり注がれている。しばし浸かった後、今日初の露天風呂へ。建物がやや小高いところにあるので、露天風呂からは周囲の景色が見渡せる。寒いがやっぱり露天風呂は最高だ。

 甘楽温泉「かんらの湯」に入ったところで目標だった550湯を何とか達成できた(前回文中とプロフィール中に「546湯」と書きましたが、私の計算ミスで実際には「547湯」でした。大変失礼しました)。2011年9月に四国一周ツーリングの時に500湯を達成して、それから1年ほどの間で50湯入ったことになる。あまり出かけていないわりにはハイペースだった。この調子で2013年内には600湯を達成したいところだ。

 2012年内に入湯数を少しでも伸ばすために、もう少し入ることにした。甘楽温泉「かんらの湯」を出発し、国道254号線を下仁田方面に進み、途中昼食を摂り、県道47号線、県道194号線を通って本日4湯目の磯部温泉「恵みの湯」に到着した。磯部温泉「恵みの湯」は群馬県安中市磯部にある日帰り入浴施設だ。複数の旅館が存在する磯部温泉は、碓氷川が近くに流れており、草津温泉を世界に紹介したドイツ人医師ベルツ博士から「世界的に優れた胃腸泉」と称されたという。

 早速館内に入り、入湯料500円(3時間)を払って浴室に向かう。開放的で明るい浴室に大きな湯船が組み合わされており、ゆったりくつろげる。無色に近いお湯をなめてみると、やや鉄っぽい味がした。後で成分表を見たところ、ナトリウム塩化物炭酸水素塩泉とのこと。露天風呂は長方形のかたちをしており、ゆっくり足を伸ばして入れる。館内の案内を見ると、日帰り入浴施設では珍しく砂塩風呂が併設されている。なかなか味わうことができないので、時間のある時に入ってみたい。

 磯部温泉「恵みの湯」を出ると午後3時を回っており、かなり陽が落ちてきた。陽が落ちるまでに帰京したいので、最後の1湯は上毛三山のひとつである妙義山のふもとにある妙義温泉「妙義ふれあいプラザ もみじの湯」に入ることにした。県道48号線から県道213号線を通って県道196号線(上毛三山パノラマ街道)に入り、妙義山とともに知られる妙義神社を通過した先にあった。

 妙義温泉「妙義ふれあいプラザ もみじの湯」は群馬県富岡市妙義町にある日帰り入浴施設だ。駐車場の目の前に妙義山がそびえており、岩肌が露出したワイルドな山の姿が伺える。入湯料は500円。浴室はそれほど大きくないが、高台にあるために窓からは町が一望できる。到着した時は妙義山に気を取られていたので、建物が高台にあることに気づかなかった。露天風呂に入ると、さらに眺望が開ける。夕陽を浴びながら澄んだ寒空のおかげで遠くまでクリアに見渡せる。これはなかなかの絶景だ。今日入った温泉を振り返りつつ、しばし身体を温めた。

 駐車場に戻ると、妙義山の陰に夕陽が沈みつつあった。本日の湯巡りはこれで終了。妙義温泉の近くにある上信越自動車道の松井田妙義インターから乗って帰京した。

 上州の寒さに耐えながら合計5湯と日帰りツーリングとしては上々の成果だった。冬場のバイクツーリングは正直過酷だ。自分も装備も限界への挑戦だ。車や電車で行けばいいのだろうが、寒い時期だからこそ走った後、温泉に浸かった時の、あのジワ〜っと温まってくる感覚は格別だ。止められなくなってしまう。そんなことを書いていたら温泉に入りたくなってきた。今年も600湯目指して走るぞ!

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山中にひっそりと佇む猪ノ田温泉「久恵屋旅館」。落ち着いた和風の建物が旅情をそそる。なめらかで柔らかいシルキーなお湯が特徴
山中にひっそりと佇む猪ノ田温泉「久恵屋旅館」。落ち着いた和風の建物が旅情をそそる。なめらかで柔らかいシルキーなお湯が特徴。


湯端温泉の敷地内の一角にある、源泉が流れる「湯端の湯(離れ)」。一見すると物置小屋のようだが、中にはれっきとした浴室がある
湯端温泉の敷地内の一角にある、源泉が流れる「湯端の湯(離れ)」。一見すると物置小屋のようだが、中にはれっきとした浴室がある。


離れの中の浴室と湯船はこじんまりしているものの、ボイラーで温められた良質の冷鉱泉がかけ流しで注がれている
離れの中の浴室と湯船はこじんまりしているものの、ボイラーで温められた良質の冷鉱泉がかけ流しで注がれている。


湯端温泉の本館。パッと見ただけでは温泉旅館とは思えない作りだ。中では釜飯やドリングが味わえるアットホームな温泉だ
湯端温泉の本館。パッと見ただけでは温泉旅館とは思えない作りだ。中では釜飯やドリングが味わえるアットホームな温泉だ。


甘楽温泉「かんらの湯」は地域密着型の日帰り入浴施設。広々とした湯船と無色透明の良泉に人気の訳がありそうだ
甘楽温泉「かんらの湯」は地域密着型の日帰り入浴施設。広々とした湯船と無色透明の良泉に人気の訳がありそうだ。


明治時代に活躍したドイツ人医師ベルツに評価されたナトリウム塩化物炭酸水素塩泉の磯部温泉「恵みの湯」。手軽に良泉が味わえる
明治時代に活躍したドイツ人医師ベルツに評価されたナトリウム塩化物炭酸水素塩泉の磯部温泉「恵みの湯」。手軽に良泉が味わえる。


夕陽に映える妙義山のふもとにある妙義温泉「妙義ふれあいプラザ もみじの湯」。露天風呂からの眺望は意表を突かれるほどの絶景
夕陽に映える妙義山のふもとにある妙義温泉「妙義ふれあいプラザ もみじの湯」。露天風呂からの眺望は意表を突かれるほどの絶景。


妙義温泉「妙義ふれあいプラザ もみじの湯」の駐車場から見た上毛三山のひとつ妙義山。何とも言えないワイルドな景観の山だ
妙義温泉「妙義ふれあいプラザ もみじの湯」の駐車場から見た上毛三山のひとつ妙義山。何とも言えないワイルドな景観の山だ。


せっかくなので群馬県の名物を食べようということで、まずは焼きまんじゅう。串に刺したまんじゅうにかかった甘みのある味噌ダレが食欲をそそる
せっかくなので群馬県の名物を食べようということで、まずは焼きまんじゅう。串に刺したまんじゅうにかかった甘みのある味噌ダレが食欲をそそる。


太田名物「やきそば」と上州名物「おきりこみ」を合体させた「やきりこみ」。名物の触れ込みだが、焼きまんじゅうともども食べたのは埼玉県の上里SAというオチ
太田名物「やきそば」と上州名物「おきりこみ」を合体させた「やきりこみ」。名物の触れ込みだが、焼きまんじゅうともども食べたのは埼玉県の上里SAというオチ。


ブースカ的温泉評価
●猪ノ田温泉「久恵屋旅館」 ★★★★
なめらかな優しく柔らかいお湯は秘湯そのもの。
●湯端温泉 ★★★★
おもてなし抜群のくつろげるアットホームな温泉。
●甘楽温泉「かんらの湯」 ★★★★★
地域密着型のデイリーユースに最適な温泉。
●磯部温泉「恵みの湯」 ★★★★
手頃に良泉が味わえる歴史を重ねてきた温泉。
●妙義温泉「妙義ふれあいプラザ もみじの湯」 ★★★★
眺望抜群の露天風呂は入湯の価値あり。

毛野ブースカ毛野ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は551湯。湯巡りツーリングの相棒はスズキ・ジェベル250XC。ちなみにマイカーもスズキのエスクードというスズキスト。


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