Hi-Compression Column

バイクの英語

今月の一言
“In the Navy”
イン ザ ネイビー

(10月13日更新)

海軍では:上官にさえ逆らわなければ何してもOKらしいですよ。
 以前に「セイラーズ トラウザーズ」という言葉を紹介したことがありますが、あれも海軍さんが行く先々の港でイタしまくっていた話ですね。
 今回も海軍のお話。


誤解を恐れず、いや、恐れつつも結局言っちゃうんだけど、「バイク乗り」であることを非常にプライド高く語る人ってのはどうもね。

どうも、うーん、なんつーか扱いに困ったりするんです。

だいたいバイクに乗る人で思考の7割以上をバイクが占めている人は、まずいかに自分が速いかを自慢する傾向にありませんかね(筆者含む)? 

ところが上には上で、しかもそのステージが公道となると明快なゴールもないからかなり曖昧な基準になって、勝った負けたなんてのは完全に自己申告になるでしょう。

で、負けたことを自己申告する人は少ないから、勝った話ばかりが多くて「最速」の人がたくさん現れる。

ま、それはそれでいいんです。

楽しいもんね、そういう話は。


ところがそういった「勝ったばなし」をあまり持たない人は、こんどは「危険な目にあったばなし」をしたがる傾向にあるんだなぁ。

アンナ危険な目にあった、転んで何十メーター吹っ飛んだ、200キロで走ってる車にカマ掘った。

……より危険な目にあっていることを、そしていかにたくさんの修羅場を潜り抜けてきたことをアピールしたいがために、どんどん現実離れしていってシマイには愉快になってくるんだけど、この人たちもまぁいいや。

張り合おうとせずに話半分以下で聞いとけばそれなりのエンターテイメント性もあるからね。

しかし極めつけに困るなぁと感じるのは、上記いずれのお話にも食い込めず、だけども注目を浴びたいクチ。

速い話も危ない話も「うんうん(笑)」と聞いとけばいいのにそれに加わりたくてしょうがない。

ちょっと茶化してみたり感心してみたりしとけばいいのに、こういったクチは自分ではない第三者を出すんだな。

「オレの知り合いはもっと速い」

「オレの知り合いはもっと危険な目に会ってる」てね。

あ、そーう。としか言えないじゃん。だいたい知り合いでもなかったりするしね。

たまたま見かけた人の話だったりするから、もはや完全ファンタジーの世界。

へー、ティンカーベルがニンジャ250で340キロ出したんだー。すごいねー。てなもんよ。

こういう人困っちゃうよねぇ。

適当に盛って、笑い話にすりゃいいのにムキになって「俺マジで見たゼ、疑うのか?」とか言っちゃうんだもんよ。扱いに困る。


今回の言い回しはこんな人に通ずるものがあります。

どうせ確証を得ることができないんだから適当に作っちゃえよ、という部分でね。


In the Navyとは、手鼻をかむことを言います。

手鼻ってわかりますか?

ティッシュもハンカチも鼻にあてず、手で片方の鼻の穴ずつを押さえて、鼻水の行き先を気にすることなく「チーン!」と鼻をかむアレです。

かんだ後はだいたい手にちょっとついて、それをジーパンの太ももあたりでぬぐったりするのが正しい手鼻のかみ方でしょう。

なぜこれを「海軍では」という意味の「In the Navy」と呼ぶようになったのか、諸説ありますが有力なものを一つ。

   ※    ※    ※

多くの不思議な英語の言い回しと同様、この言葉はイギリス発のものである。

世界に先駆けて大型の戦艦を造り、各地を侵略していったイギリスは海軍の強さにはこだわってきた歴史を持つ。

国土が少ない島国だからこそ、海を制する大切さを感じていたのだろう。

強い海軍を維持するためだったら多少の無理や理不尽にも目をつぶってきたという経緯がある。

長い海軍の歴史から、イギリスは小国であるにもかかわらず世界での地位を確立し、そして大航海時代からヨーロッパの中でも先進国として、そして豊かな国としての歴史を歩んできた。

国民にはそれが海軍のおかげであるという認識が刷り込まれてきており、今の豊かさは海軍さんのおかげ、という考え方が普通だった。

これにより、海軍経験者や現役海軍軍人は色々と優遇され、さらにそのポジションから多少の無理や理不尽、無礼も許されてきた。

もしも許されないような場面に遭遇しても、自分が海軍出身であることを示すかのようにIn the Navy……と「海軍ではなぁ、こうなんだよ」といった言い方をすれば許される場面が多々あったそうだ。

そのため、実際に自分では海軍に入ったことが無くともIn the Navyと言うことで無礼を押し通す人も多く出現し、実際には全く海軍のことを知らないのにもかかわらず、さも知っているように話す人が増殖した。

海軍でもとても許されないような振る舞いでさえも、実際に海軍を知らないがためにでっち上げ、押し通されてしまうこともザラであったのだ。

さらには、海軍出身でも関係者でもないことが知れてしまっている人は「オレの知り合いの話では、海軍では……」と又聞きの又聞きで、「公道最速バイク乗り」や「公道最修羅場潜抜バイク乗り」と同じぐらいファンタジーの世界の話となっていったのだった。

第2次大戦になると、引き続き海軍の力は必要とされるものの、敵はすぐ隣、ヨーロッパのドイツだったために、どちらかというと重視されたのは空軍の方だった。

これにより海軍は過去のものになりつつあり、世間の憧れはNavyではなく、RAF(ロイヤル エア フォース)へと移っていった。

こうなると一時の肩で風を切っていた海軍の様をからかうような風潮が生まれた。

数々の無礼を「海軍ではなぁ、許されるんだよ」で片付けてきたIn the Navyという言葉、結局成り下がったその先は手鼻をかむという行為だったのである。

実際海軍では甲板で手鼻をかんでいたのだが、イギリス国内の人前でそんな無礼は許されず、本当の海軍出身者がそれを注意された場合ブツブツと「In the Navy……」と言っていたそうだ。

これがこのまま手鼻という意味になり、手鼻をかむことを今でもIn the Navyとイギリスでは言っている。

   ※    ※    ※

信じられない話なんだけど、イギリス人は今でもティッシュなど使わず、鼻はハンカチでかんでいます。

だからハンカチがデロデロになるわけ。

それをポッケにグシャッて突っ込むんだからびっくりしますよ実際。

ま、イギリスはロンドンなどの最都市部を除いて基本的に衛生観念が低いですからね、歴史と文化の地だと思って旅行すると驚くことも多いと思います。

さ、この言い回し、普通に手鼻をかむときに使ってもいいですが、困った「他人自慢バイク乗り」に投げかけるのもいい使い方だと思います。

肩で風を切ってファンタジーの世界へと向かいつつあるバイク乗りに出会った場合、冷ややかに「In the Navy……」と投げかけてあげるとよいでしょう。

むこうもすでに引っ込みがつかなくなっている場合が多いですからね、そんな一言で現実に引き戻してあげて、なおかつ笑い話にしてあげれば本人も助かるはず。

うん、是非活用して下さい。



リッキー・グラバム
バイクの英語
海軍とは全く無縁で、アメリカで牧場の息子として育った。イギリスなど行ったことも無く、又聞きの又聞きでコラムを書いている無法者。若い頃はヤマハが好きで、真っ赤のFZ750でAMAに出場したこともあったが、今はスズキのセニアカーが愛車。過去の栄光にすがりつき、トラクターは今も赤に塗っている。


[第3回“Pig’s ear”]
[第4回“In the Navy”]
[第5回“Up your sleeve”]
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