Hi-Compression Column

バイクの英語

今月の一言
“Up your sleeve”
アップ ヨア スリーブ

(11月16日更新)

よくわからない言い回しってやっぱり起源はイギリスであることが多いみたい。
 だって「英」語だからね。メリケンに毒されちゃぁだめスよ。
 でもね、剣道の達人はフェンシングでも活躍してるんだって。異文化交流だねぇ。んん?
 何が言いたかったのかわからなくなった……


最近バイク関係で立て続けに素晴らしい経験をしています。

まず、つい先週新しい中古バイクを買いました。大型だからやっぱり安くないわけですよ。

で、初めて行くバイク屋さんで「車検も全部自分で通すから現状販売でどう?」って聞いたらスンナリOK。

しかも現状とはいえ一応一通りの整備もしてくれて、翌日にはお金と引き換えにトランポに積んで帰ってきたわけ。超スムーズ&ストレスフリー。気持ちよかったです。

距離が3万キロ近いから(ってったって大型バイクにとってそんなのナラシってなもんでしょう)一応色々見た方がいいかなと思って、ブレーキ周りの整備とチェーン注油、各部グリスアップ、オイル交換、プラグ交換などやりました。

ちょっと乗ってたら、ステムベアリングが死んでることに気づいて、近所のディーラーでパーツ注文。

そしたら嫌な顔一つせずにパーツを発注し、しかも翌日には入荷して、さらに自分で交換するときの注意事項まで親切丁寧に教えてくれました。いや、本当にありがたいし、気持ちいい人だった。

で、他の行き付けショップ(たくさんあるんだけど)に「買っちゃいました!」なんて見せに行って、「でもキャブの調子がもうちょっとかなぁ」なんて言ったら「じゃもってきなよ」と非常に気さく。

うーん、昔の「ウチで買ったバイクしか見ないよ」とか、「パーツ注文のみは受け付けないよ」なんていう時代は終わったんだなぁ、と実感しました。

ちなみにステムベアリングも自分でやるつもりだったけど、近所のまた別の行き付けショップが「パーツはあるの?じゃ今日やってあげるよ」なんていうもんだからお願いしちゃった。こちらもスムーズ&フレンドリー。非常に気持ちいい。  

こうなってくると中古車を買うのなんてどこでもよくて。中古で買ったらどうせ消耗品は全部換えた方が良いし、だったら「キャブが得意なのはあのお店」「タイヤだったらあのお店」「サスだったらあのお店」と自分で選んで整備に出したいじゃない。それぞれが得意分野で様々な技術を持ってるわけだからね!  

そんな、各ショップが得意分野として、隠しているわけではないけれど「持っている」技術やノウハウ、こんなものを指して
「Up your sleeve」
なんですねぇ。

様々な技術や特技、知恵やかくし芸なども含めて、何でもいいのだけれども、形にならないものを持っていること、それはSleeve(袖)の中に隠しているという言い方をするのです。

語源は諸説ありますが有力なものを二つ。

   ※    ※    ※

もともとはマジシャンやトランプのディーラーに由来したという話。

マジシャンは数々のトリックを展開する中で、モノを突然消したり、もしくは現れさせたりとする芸が今でも多い。


[第4回“In the Navy”]
[第5回“Up your sleeve”]
[第6回“Boys are Back”]
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その多くは人の注意を別のところに引き付けておいて、その隙に消したり出したりするわけだが、そんな物体たちを隠す絶好の場所が、ピエロみたいな衣装の袖の部分だったのだ。

観客が思いも付かないようなものを登場させたりするマジシャンに対して、それらのものを袖の中に隠している以上に、こちらの予想も付かないようなものや技術、トリックを持っていることを指し
「He’s got a lot of tricks up his sleeve」
(彼は袖の中にたくさんのトリックを隠しているんだ)と言った。

それは実際に登場するハトや猫などの物体に対してではなく、そのマジシャンの持っているマジックの技術そのものを褒める言葉となっていった。

もう一つ、カードのディーラーにちなんだ言い方は、賭けの場面などで非常にクリーンなディーリングが求められるディーラーだが、実際はここぞという場面では負けてはいけない。

必ず親が勝たなきゃいけないそんな場面で、ディーラーは袖の下に隠したカードをスルリと滑り込ませるといった技術を持っていたそうな。

しかしそんなことをしている所を見つかってしまっては当然ディーラーとして失格。

そこでお客にバレないようにしてそれを成し遂げるわけなのだが、袖に隠しているのはカードではなく、決してお客にバレずに勝利する技術そのものである、と、その技術を指す言葉として定着したそう。


もう一つは、イギリスの寒い気候に由来するという話。

イギリス紳士は必ずハンカチを持っているという話は聞いたことがあるだろう。

そんなスマートな印象と現実とは大きく違い、イギリス人はなんと、ティッシュではなくハンカチで鼻をかむのだ! 

基本的にポケットティッシュというものは存在せず、ハンカチでチーンと鼻をかみ、そのハンカチをポッケにまたしまう。

特に冬ともなれば非常に寒く、鼻水もたくさん出る気候ではあるのだが、いくら鼻をかむ回数が多くともその鼻水がべたべた付いたハンカチをポッケにねじ込むのはどうかと思う。

が、それが現実。現在でもそのようになっている。

で、人によってはそのハンカチをポッケではなく袖の中に押し込む人がいる。

この行為自体が日本の衛生観念から考えると想像しにくいが、事実なのだからしょうがない。

袖に鼻水ハンカチをしまうのは高齢者が多いのだが、タダでさえおぼつかないのにさらに鼻水ベタベタのハンカチが袖から出たり入ったりするもので、途中でクラッカーの端っこが鼻水にくっついたり、袖に戻している最中に紅茶の中にちょっと浸かったりすることも日常茶飯事。

そうなるとハンカチはタダの鼻水ハンカチではなく、様々なものが絡み合った、不思議な物体となって袖を出入りするようになる。  

数日使ったハンカチを洗ってみると2ポンド玉が現れたという話まであり、そのうちに、高齢者が鼻水ハンカチの中に何を隠しているのかわからない、そしてハンカチの中だけでなく、我々より長く生きてきた高齢者はどんな知恵や秘密を隠しているかわからないものだ、という意味で使われるようにまでなったのだ。

   ※    ※    ※


いずれの語源でも、とにかく何かを隠している、もしくはこちらが予想しないような技術や切り札を持っているという意味で使われるように発展していき、現在そういう意味で使われているのです。

だいたいはいい意味を指しますね。

隠し事や秘密といった、マイナス要素ではなく、何かいいもの、技術や知識、知恵を持っていることを指すことが多いです。

そんな技術や特技、僕にあるかなぁと袖の中をのぞきこむ筆者です。



トーリン・エドワーズ
バイクの英語
ガンダルフとその仲間たちと共に冒険したドワーフ族だけど、人間界ではヤマハ系レーシングライダーとして知られる。
「バイクに乗るのが仕事なんだから、トレーニングもバイクでしょう」と一切のフィジカルトレーニングを放棄して、オフシーズンはひたすらバイクに乗っている。笑顔だし、丁寧だし、いい年なのに速いし。
残念なのはアメリカ人であるということだけだなぁ。


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