Hi-Compression Column

バイクの英語

今月の一言

“Gungy”

(ガンジー)


(2011年1月17日更新)

コラム「順逆無一文」を読みましたか? バイクが敬遠される・嫌われる・マイナスイメージとなるたくさんの原因が羅列されていました。
 どれも納得の内容で「ぐう」の音も出ません。
 それよりも問題は、それら51項目(もあった!)を上回る、みんなを納得させることのできる「バイクが良い項目」をスグに思いつかないこと。
 これは「ガンジー」なシチュエーションなのである。  


『バイクは自由だ』

……ぐらいしか、箇条書きで書ける説得力のある項目が思いつかない。

他にももちろんありますよ、バイクの魅力。手軽で、エコで、省スペースで、とか。だけど説明するとなると「一言」でなかなか言えない。

「四輪のように道具として使わずに、メカニカルな部分も意識して取り組む面白い乗り物」

「常にバランスを保ちながら、機械を操る楽しみを感じながら乗れる乗り物」

「危険であるからこそ、危険を回避する能力や危険な状況を予見する能力が育まれる乗り物」

「女の子のおっぱいを背中に感じることのできる乗り物」。

あ、これは『バイクはおっぱい』って箇条書きできるな。

僕は毎日バイクに乗って、そしてなるべく51項目の悪印象を回りに与えないように走っているけど、それでもやっぱりあまりいい目では見られない乗り物だと思う。

よく思うのは、バイクはタバコに似ているということ。

危険だ・迷惑も掛けやすい・死ねる、などのリスクを負いながらもそれでもやめない。

やめないどころか「喫煙者にも権利はある」「バイクに乗って何が悪い」と主張までしちゃう。

ところが、タバコだってやめろって言ってるわけじゃないじゃない。家に帰って、ゆっくり家で吸えばいいじゃない。

それを歩きながら吸ってみたり、仕事中に吸ってみたり、煙の行方を気にしなかったり、ポイ捨てしてみたり、一服を言い訳に休んでみたり……。

これはバイクにも、実はよく似た態度を見ることができるのです。

街中なのにやたらめったら飛ばす人、見て欲しいのか何なのかやたらとフカシまくる人、アウトロー気取りなのか何なのか威圧的な服装をする人、ギャング気取りなのか何なのか徒党を組む人……。

合法かどうかなんて全く関係なく、周りに不快感を与えちゃったら自動的にバイクの印象は下がる。タバコと一緒なのですね。

それなのに、そんなヤツラに限って権利主張するんだ。困った。

イナカのオッツァンが畑で一服ついてて誰が文句言うだろう。

北海道をセローでソロツーリングしていて誰が文句言うだろう。

ありもしない権利を振りかざして、自分のバイクやタバコを正当化しようとする人は、大抵は不道徳なことをしていて(マナーなんていう適当な横文字ではなく「不道徳」ですよ)、それを指摘されている人たちでしょう。

そういう人たちは声を張り上げることができるほど、バイクで周りに良い印象を与えているでしょうか。


[第6回“Boys are Back”]
[第7回“Gungy”]
[第8回“get the baby a new bonnet”]
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しまった。またこんな真面目な話をしてしまった。

違うんですよ、こんなことを考えながら、日々二輪情勢の未来を案じている僕の心が「Gungy」な状態だっていうことで、今回のバイクの英語となるんですよ。ホント。

Gungy(ガンジー)とは、「ドロドロな」という意味です。しかもただのドロドロではなく、粘り気を伴ったドロドロですね。

クランクケース内に、水分と混じったオイルがマヨネーズ状になってくっついてることがあるでしょう? あれはまさに「ガンジー」。

もしくは塗装面にブレーキフルードをこぼしてしまって塗装がグチャグチャにめくれてどうしょうもない状態、それはその塗装面もガンジーですが、状況としてもガンジーですね、打開策がないという意味で。

そう、ガンジーはドロドロ・ベタベタ・グチャグチャという意味で、物の状態だけでなく心の状態やその状況を指しても使います。

その語源には諸説ありますが有力なものを一つ。

   ※    ※    ※

やはりガンジーといえばインドの偉大な指導者を連想する。マハトマ・ガンディーだ。

インドの英国からの独立を無抵抗によって成し遂げた人物で、何度もノーベル平和賞にもノミネートされている。

彼は非常に質素であったことでも知られ、亡くなったときの所有物といえば身につけていた衣とメガネだけだったといわれる。

指導者とはいえ、協力者と共に路上に近い状態で生活していたガンディーは、めったにお風呂に入らずにかなり「ガンジー」な状態だっただろうし、当時のインドの独立を目指す世の中はイギリスの凄惨な弾圧により非常に「ガンジー」な状況にあったため、指導者ガンディーとスラングの「ガンジー」を結び付けやすいが、語源はここでは全くない。

しかし、インドという地域は合っている。ガンジーの語源はガンジス川なのだ。

聖なる川であるガンジス川は今でも多くに人々が沐浴をすると共に、生活用水としても使われている。「聖なる」川ではあるが、実際は生活下水も流し込まれたり、死者を川辺で火葬しその灰を流したりしているため、あまり綺麗な川とはいえない。

それでも、雨季の間とその後の数ヶ月、流量が多い間は特に問題はない。

しかし乾季に入ると流量が極端に減り、川というよりは泥沼のようになってきてしまうのだ。

しかし地元住民は川の状況に関わらず沐浴するわけであり、これを見たイギリス人達はドロドロのガンジス川で沐浴している人のベタベタ・ドロドロぶりを見て「Gungy」と言うようになったそうだ。

   ※    ※    ※


ちょうどその後から、アヘン戦争やインドの独立など、泥沼的状況となったため、この言い方が浸透したのでしょう。

今でも一般的に使う言葉です。難しく考えずに、なんだかガンジーな状況では遠慮なく使いましょう。

最近使った場面は、旧車のブレーキホースを切ってみたら、フルードに侵食されたホース内側がブヨブヨになっていてかなりガンジーな状態だった時。

ガンジ(ガンジーな状態の元になるドロドロのもの)がたくさん詰まってて、ホース内側の穴がほとんど塞がっている状況だったのにはビックリしました。

バイクを取り巻く環境は、販売面からもガンジーな状況だし、世間様からの冷ややかな目もなかなかガンジーですね。

しかしそれを憂いて気持ちまでガンジーになってはいけないな、と反省しています。

スリヌケしたらちょっと手を上げて車に感謝の合図。マフラーはノーマル。大人のライディングと笑顔の対応。えぇ、バイクの未来は明るいですよ!



ピジョイ・マリク
バイクの英語
インドの大金持ちであり、完全なる好意で今回このブログを書いてくれた紳士。バイクは最近新型のスーパーカブ110を購入して、巨体でちょこんとまたがりニューデリーを徘徊する。ホンダが最近インドから撤退する様子を見せているのが不安のタネ。現在はフォースインディアの監督を務める。


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