走っていくと、両側に岩盤の壁があり、上には樹木が生い茂り、快晴の真っ昼間なのに、日が差し込んで来ない場所に入った。
そこだけ妙に涼しくて、時間の流れがスピードダウンした世界に迷い込んだよう。
ボクらが生まれる100年ほど前に登場した、ルイス・キャロルの少女のように、チョッキのポケットから懐中時計をとりだすウサギが前を走っていても不思議だとは思わないかも。
おや、こんなところにハンプティ・ダンプティがいる────────ああ、ごめん、アッキーだった。
そんな、これっぽっちも退屈させない道を走りながら、高度をどんどん上げていった。
そして─────────────────
中津川の渓谷を目にしながら、三国峠を登って、ふたりと2台のセロー(ホントは鈴木カメラマンのトリッカーもいるけどね)は、埼玉県秩父市中津川から長野県南佐久郡川上村へと入った。
標高は1740m。
ハマヤ境界線にて思う。
16歳で原付の免許を取ってすぐだったと思う。CB50JX-Iに乗り、友人のパッソルDとあてもなく走り出した。
電車やバスといった公共交通機関ではなく、己が時間を制御できるバイクという乗り物で初めて県境(大分県→宮崎県)にさしかかり、「さようなら大分県」の看板を見て通り、「ようこそ、宮崎県へ」という看板を見たとき、なぜか無性に嬉しくなって、ふたりでガッツポーズをしたことを思い出した。
自分にとってこの道は初めてでは無いけれど、アッキーとこられたことが感慨深い。
同じ道を走っても、そのシーンはイチゴ1円────もとい、一期一会だ。それほど苦労はしていなけれど(アッキーは大冒険だろうな)、達成感、ちゃんとカタルシスがあった。
ヘルメットの中で自然とニヤけていた。アッキーもきっとそうだったろう。
ボクらは辿り着いた。
そしてまた走り出した。
アッキー境界線にて思う。
いやいや、正直走る楽しみはかなり盛り上がってきたものの、厄年を超えた中年の身体は正直。
目的地も特になく、ただひたすらマシンコントロールして大自然の中を走るってのは、結構ストイックな行為で、当然ながらオレの四肢は「いつになったら終わるの〜」とうめき出した。
すると、前を走っているハマちゃんが、何やら前方を指さしている。
「くうっ、前を行けってか、ヒデヨシ。やってやろうじゃん」とバリバリ伝説のグンのように戦闘態勢となるオイラ。
だがそれはオイラの勘違いで、気づけば、目の前は長野県との県境。
おおおおっ!
特に境目だからといって何か変わったものがあるわけではないんだが、ラインを超えた瞬間、オレたちガッツポーズを決めたのさ。
別に誰も見ちゃいないんだけどね。